電子ビーム金属3Dプリンターブース、来場者で賑わう JIMTOF 2024出展レポート

2024年11月5日から10日にかけて「第32回日本国際工作機械見本市(JIMTOF 2024)」(東京ビッグサイト)が開催されました。約13万人が来場した同展示会に、日本電子は電子ビーム金属3Dプリンター「JAM-5200EBM」を出展。製品情報や、同機による試作物を展示しました。当日の様子についてレポートします。
6日で500名以上がブースに来訪
開会式では、経済産業大臣の武藤容治氏が登壇。
「わが国の工作機械産業は世界トップクラスのシェアを誇る基幹産業であり、高精度加工と高品位製品で日本のモノづくりを支えている存在」「工作機械は経済安全保障上も極めて重要であり、政府として特定重要物資に位置付けている。積極的な投資や開発を行う事業者を引き続き支援する」として、産業振興への強い決意を示しました。
日本電子のブースは「Additive Manufacturing Area」に出展。このエリアは、AM製品・技術を一堂に会する特別企画エリアで、日本電子の他に、DMG森精機、松浦機械製作所、ニデックマシンツール、三菱電機などのブースが並びます。

当日ブースで案内をしていた、営業の松山さん
日本電子のブースは、常に5人から10人ほどの来場者で賑わっていました。ブースで案内していた、松山さんにお話を聞いてみました。
「前回2022年のJIMTOFでは400名強の方が来訪されました。今回は前回を上回るペースです。国内の他の3Dプリンターの展示会にも出展していますが、JIMTOFがいちばん来場者が多いです」(松山さん)
銅やタングステンの造形物に注目集まる
松山さんによると、来訪者が所属する業界は様々ですが、主に金属加工や自動車関連、重工、産業機器、部品、素材メーカーなど。ブースではチタン合金、ニッケル合金、銅、タングステンの試作物を数多く展示していましたが、来訪者が特に興味を示すのは、主に銅やタングステンを加工した造形物だといいます。

タングステン製の放射線シールドなど
「純銅やタングステンはレーザーでは造形が難しいのですが、電子ビーム金属3Dプリンターは高出力、高エネルギー変換効率のためこうした金属も割れを抑えて高密度で造形ができます。また、従来の削り出しより材料の無駄が少ないだけでなく、従来工法では難しかった内部の空洞化や、複雑な形状の造形にも対応できます」(松山さん)
タングステンには放射線を遮断する性質があるため、今後は医療や原子力関係などにも活用が見込まれます。また、電子ビームパウダーベッド方式により造形されたチタン合金でできた医療インプラントは、国内外ですでに多くの患者を救っています。

チタン合金製のインプラントサンプル

精緻な人工股関節カップも来場者の注目度が高い
「金属3Dプリンターは従来の工作機械よりも高価で金属粉末も安価ではないため、日本市場では急速に広まる、というわけにはなかなかいきません。しかし、展示会に出展したりセミナーで講演することにより、日本電子がこういった電子ビーム金属3Dプリンターを開発しているということの認知はもちろん、電子ビーム方式の特長を少しでも多くの人に広めていきたい。少しずつその手応えが出てきています」(松山さん)
AMエリア特別展示-TRAFAMプロジェクトと日本電子の取り組み-
「JAM-5200EBM」のもととなった試作機は、技術研究組合次世代3D積層造形技術総合開発機構(TRAFAM)のプロジェクトの一環として開発されました。TRAFAMは、次世代型産業用3Dプリンタの積層造形技術開発・実用化を目指し、産学官が連携して研究開発を推進する組織です。日本電子もこのプロジェクトに参加し、電子ビーム制御技術を応用して電子ビーム式金属3Dプリンターの実用化に挑みました。

TRAFAMの研究成果についても展示されていました
第一期の前半(2014年度〜2016年度)ではまず基礎技術の研究開発を主目的に、経済産業省からの委託事業「三次元造形技術を核としたものづくり革命プログラム」において、次世代型産業用3Dプリンタ技術開発を遂行。
その後半(2017年度~2018年度)には、 NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)からの委託事業「次世代型産業用3Dプリンタの造形技術開発・実用化事業」において、引き続きより精緻な3D積層造形技術の開発と実用化を推進し、JAM-5200EBMの開発に繋がりました。
第二期(2019年度~2023年度)としてスタートしたNEDO委託事業「積層造形部品開発の効率化のための基盤技術開発事業」にも参加することができ、この開発では、JAM-5200EBMの半分以下のサイズの小型試験研究機を用いて造形中に発生する欠陥を反射電子画像によるin-situモニタリングで予測し、自動的にフィードバック、欠陥補修を行うフィードバック制御機能を開発。
フィードバックなしの場合の欠陥率1.10%と比較して、再溶融することで欠陥率を0.025%まで低下させることに成功しました。
「JAM-5200EBM」で純銅粉末を用いたコイル造形に成功
11月7日には、日本電子工業株式会社様の講演「電子ビーム金属3Dプリンタによる銅3D造形開発と誘導加熱コイル製造への応用」で、技術開発部部長の大沼一平様より当社の「JAM-5200EBM」が紹介されました。

講演の中で当社の電子ビーム3Dプリンターをご紹介いただきました
日本電子工業株式会社様は1957年に設立され、熱処理や表面処理の委託加工、装置製造販売などの事業を展開されています。
こうした事業に不可欠なのが誘導加熱技術です。この技術は様々な産業分野で利用されており、非接触で効率的な金属部品の加熱が可能です。しかし、講演の中ではこうした誘導加熱コイルの課題として、高度な技術を要する製造過程と、技術者の不足が挙げられました。
そしてこれらの課題に対応するため、当社の電子ビーム金属3Dプリンター「JAM-5200EBM」を用いた高周波焼き入れコイル製造の試みが紹介されました。日本電子工業株式会社様は当社の電子ビーム方式の金属3Dプリンターを使用し、純銅粉末を用いた銅のコイル造形に成功しています。

日本電子工業株式会社様で実際に活用いただいている純銅の高周波焼き入れコイル
講演の中では、従来のコイルと比較して、「JAM-5200EBM」による3D造形コイルは複雑な形状や内部構造の実現、接合部の削減による位置精度の向上などの利点があることが示されました。また、高効率な冷却機構を持つコイルの開発や、シミュレーションによる変形挙動の解析なども行われているといいます。
これらの技術革新により、誘導加熱コイルの性能向上と製造プロセスの効率化が期待されているそうですが、当社の「JAM-5200EBM」がその一助となるよう願っています。
本記事では、当社のJIMTOF 2024出展を通して、電子ビーム金属3Dプリンター「JAM-5200EBM」についてご紹介しました。さらなる技術の革新と、実用化を目指して、一同今後も尽力して参ります。
関連製品

JAM-5200EBM 電子ビーム金属3Dプリンター
当社は電子顕微鏡や半導体製造用電子ビーム描画装置で培った電子ビーム技術を応用して電子ビームパウダーベッドフュージョン(EB-PBF)方式の金属3Dプリンター「JAM-5200EBM」を開発しました。パウダーベッドフュージョン方式は他の金属3Dプリンター方式と比べて、高密度で強度が高く、また高精細で複雑な形状も造形することができます。 JAM-5200EBMは造形中の不活性ガス導入が不要で、長寿命カソードを搭載し、高精度な自動ビーム補正技術により再現性の高い生産が可能となっています。レーザー装置では造形が困難な高融点金属や純銅も造形することができます。
導入事例

日本電子工業株式会社様~高周波焼入れ技術の進化を支える金属3Dプリンター
日本電子工業株式会社は、高周波焼入れ技術の分野で長年の実績を持ち、金属積層造形技術を採用することでさらなる進化を目指しています。今回のインタビューでは、日本電子工業が金属3Dプリンターを導入した経緯や今後の展望、日本電子に寄せる期待について詳しくお話を伺いました。
開発秘話

日本電子株式会社
日本電子は、1949年の創業以来、これまで最先端の理科学・計測機器、産業機器そして医用機器の開発に邁進してきました。
今では数多くの製品が世界のいたるところで使用され、真のグローバル企業として高い評価を頂いております。
「世界の科学技術を支えるニッチトップ企業」を目指し、ますます高度化し多様化するお客様のニーズに的確にお応えしていきます。