透過電子顕微鏡 (TEM)
電子顕微鏡とは
電子を利用してミクロの世界を探究
「物を拡大して見ると何が見えてくるのか?」この欲求を満たすべく色々な工夫で発明がなされてきました。この一つが光学顕微鏡です。人の目は、せいぜい0.2mm程度の大きさしか識別できません。光学顕微鏡は、人の目には見えない小さな「物」を、ガラスレンズの組み合わせで拡大することにより明らかにしてくれます。しかし、拡大率(倍率)をどんどん上げていけば、原子まで識別できるかといえばそれの答えは残念ながら「NO」です。照明に光を使った光学顕微鏡では、小さな構造を識別する能力(分解能)が低いのです。光の波長よりも小さな構造を識別できないからです。
この限界を破ったのが、ドイツのルスカ等の技術者です。彼等は光のかわりに電子線を照明に用いた「電子顕微鏡」を発明しました。光学顕微鏡とは比べ物にならないほどの高い倍率で小さな構造を見ることができるようになり、現在では原子の並びを識別が出来るまでに成りました。
電子顕微鏡は、光学顕微鏡では観察不可能な微小な構造を鮮明に観察することができます。さらに、電子線による物質構造の解析や原子レベルでの情報を得ることができ、私達が想像もつかない原子の世界までも追求できる人類の発明した画期的な道具として世界中で活躍しています。
電子線と光の違い
空気中では電子は自由には動けない性質を持っています。しかしながら、真空中では、自由に動くことができます。電子顕微鏡では光学顕微鏡と違い、電子が動きやすいように鏡筒の中が高真空に保たれています。そして電子線は、電子銃というピストルのようなもので電子を加速して作られます。次に加速された電子を観察しようとする試料に照射すると 、電子は試料を透過あるいは散乱します。この電子線を電子レンズ(ガラスレンズで光を屈折させるのと同じように、電界や磁界で電子線を曲げて像を結ばせる働きをします)で、集束または発散させて、一番下にある蛍光面に拡大した像を結ばせます。
電子線は真空中で細いフィラメントの加熱又は、強い電界をかけることで発生する電子の束で、光よりも波長の短い「波」の性質をもっています。電子顕微鏡のレンズは、ガラスではなく電磁石の組み合わせで構成された磁界レンズを利用します。
これまでの説明から、小さな構造を見分ける能力、すなわち分解能は照明に用いる「波」の波長に大きく左右されていることがわかります。この「波」の性質は、池に小石を投げたときに生ずる波紋に例えて説明すると分かり易いことでしょう。池の水面に発生した波紋が水面上に突き出た岩を横切るとき、波の山と山との長さ(波長)よりも大きい岩であれば岩の後ろに波紋は回り込みません (図.1)。これが影に相当します。もし、岩が波長よりも小さければ、波紋は岩の後ろまで回りこみ影が出来ません。この事は、岩の存在を認識出来ないことにあたります。
実際に人の目に見える光(可視光)の波長は400~800nm (1ナノメータは0.1mmの10万分の1)です。
一方、電子顕微鏡の照明(光源)に用いる電子線は、加速電圧を変えることにより電子線の波長が変わります。電子顕微鏡に用いる加速電圧は、一般的には100~200 kV (波長0.0037nm~0.0025nm)です。
この波長は光の波長よりはるかに短く、原子(数nm)の並びまで識別するのに十分と言えます。光学顕微鏡では、倍率を換えるときにはレンズの組み合わせを変えますが、電子顕微鏡のレンズは、前述のように電磁石を用いますので、そこに流す電流を変える事で磁場の強度を変えます。これは光レンズの屈折率(光学顕微鏡に例えると凸レンズの厚み)を変えることに相当し、電流のコントロールで倍率を自由に変える事ができます。
もう1つの特徴“電子回折"
もう一つの大きな電子顕微鏡の特徴は、電子回折図形を見ることができることです。
これは物(試料)の性質、特に原子の並び方がわかる重要な情報です。X線を用いてもこの情報を得ることができますが、照射域の像との対応がありません。高倍率での像観察と、同一の照射域で極微小ナノメータ領域で電子線回折の情報を得ることができます。
電子を極薄い試料に照射すると、電子は試料を透過する際に散乱されます。この時に電子回折図形を得ることができ、大きな特徴として、電子回折法という重要な活用法もあります。この電子回折法を用いると、結晶性試料内の分子・原子の配列を調べることができます。それでこの方法は材料科学の分野で重要な役割を果しています。