超LSI時代のパイオニア

日頃、我々が使用している携帯電話、パーソナルコンピュータ、ゲーム機、デジタルカメラ、オーディオ機器、テレビ等の電子機器等には LSI(大規模集積回路)と呼ばれる半導体電子回路部品が組み込まれています。最新型のLSIには10億個を超えるトランジスターが詰め込まれています。電子ビーム描画装置(以後EB描画装置と略します)はこれらの半導体素子を生産、研究開発する上で重要な役割を担った装置です。

JBX-6300FS 電子ビーム描画装置

エレクトロニクスの魔法の杖 LSI

1945年に、世界最初の電子式コンピュータ「エニアック」が開発されました。これには1万8千本もの真空管が使われ、その大きさは全部を平らに並べると 100畳敷きぐらいの大広間に匹敵しました。重さもゆうに 30トンという非常に重たいものでした。ところが現在ではLSIの登場で「エニアック」の何万倍もの性能をもったコンピュータが簡単に持ち運びできるほどに小さくなっています。この「魔法の杖」のような LSI は、キャラメルぐらいの大きさの黒いプラスチックのかたまりで、ムカデのように多くの足が出ています。この中には1~2センチ角の薄い板(これはチップと呼ばれ、これこそがまさしく魔法の杖の正体なのです。)が入っています。チップには LSI の機能に応じて設計された非常に微細な回路パターンが精密に描かれています。そしてこの微細な回路パターンはEB描画装置によって描き出されるのです。

LSIチップはどうして作られる?

目的に応じて設計されたLSIパターンは、レジストが塗布されたクロム膜付きの石英基板(サイズは152mmX152mmが主流)にEB露光を行い、現像工程でレジストのパターンを形成します。このレジストパターンを保護膜としてエッチングを行い、クロムの遮光膜を形成します。こうして出来あがった原版をフォトマスク(写真のフィルムに相当するもの)と呼んでいます。現在、主流のフォトマスクは LSIチップに描かれるパターンの4倍又は5倍の大きさに描かれた拡大マスクになっています。通常、拡大マスクのことをレチクルと呼んでいます。

レチクルのパターンはステッパーやスキャナーと呼ばれる光転写装置を使ってウェハ上に焼き付けられます。これは写真の焼き付けと同じ原理です。写真のフィルムに相当するものがレチクルであり、印画紙に相当するものがウェハと言うわけです。このレチクルがフィルムと大きく異なる点は、フィルムの絵に対し、レチクルパターンの場合は描かれている回路パターンが非常に微細であることです。 最先端のLSIであるDRAM(記憶素子)、MPU(演算素子)等には回路線幅がウェハ上で45nmと非常に微細なパターンが描かれています。

この45nm対応のマスクに要求される精度は152mmX152mm角の材料の上に約0.2μm幅(50nmの4倍ですね)の線を2~5nm程度の寸法誤差と位置誤差でパターン形成をすることです。パターン転写の終わったウェハは、現像後、レジストを保護膜としてエッチング、拡散処理、金属膜形成等がなされます。このパターン転写からエッチング等の行程は、何回か繰り返されて、目的の LSIチップが形成されます。こうして出来上がったLSIチップはウェハから個々のチップにレーザ光で切り分けられ、パッケージの中に組み込まれます。ウェハは直径200mmまたは300mmの大きさのシリコン単結晶で、最終的にはこの一枚のウェハからは、数百個のLSIチップが誕生します。

一方、携帯電話の送受信増幅器に使う高周波用半導体や、光通信の光源レーザを制御する光半導体などの化合物半導体にも回路幅が0.1μm以下と非常に細いものがあり、この工程にのみレチクルを使わず直接ウェハ上に電子ビームでパターンを描画するのにも EB 描画装置が使用されています。

自在に動く電子ピームのペン

EB描画装置の構造

図には代表的なスポットビーム方式の構成図を示しています。電子ビームは電子銃から発射され、電子レンズによって材料上に集束されて非常に小さなスポットとなります。一方、描画するパターンデータは、一旦、装置制御用のコンピュータに付属するハードディスクの中に格納されます。その後、このデータはハードディスクから高速データ処理システムを経由してブランキング制御系およびビーム偏向制御系へと送られます。ビームはパターンを描くためにブランキング回路で、ON/OFFされ、偏向回路の働きで所定の位置に偏向されます。このような電子ビームの動きとステージの動きを組み合わせて設計どおりのパターンが描かれます。ステージの動きを正確に制御するためには、レーザ干渉計測システムが使われています。このようなスポットビーム方式の装置は、電子ビーム直接描画法による次世代半導体素子の研究開発用や高周波半導体素子、光半導体素子などの生産用として使用されています。他方、レクチル製作用としては可変成形ビーム方式という装置が使われます。これはビームの形を点(スポット)から面(矩形)へと思想の転換をはかったもので、高速描画の突破口を切り開きました。この方式では描画パターンを矩形に分割し、それを大きさの変る矩形の電子ビームで判を押すように描画していきます。本方式の装置はレチクル描画の主力装置として毎日生産現場で使用されています。