走査電子顕微鏡とは

ミクロ表面観察のチャンピオン

物質の科学的評価の第一歩は物質の形態をしっかり観ることから始まります。物質を観るためのツールとしては、簡便な物では虫めがねや光を利用した光学顕微鏡があります。しかしながら、光を利用するかぎりでは、光の波長より小さい物を観察することができず、ナノ構造の観察は困難です。
ここで紹介する走査電子顕微鏡(SEM)は、この光の代わりに波長の短い電子線を利用して、数nm[ナノメートル]程度の構造まで観察できます。

1nm = 10億分の1m = 10-9m
走査電子顕微鏡:
Scanning Electron Microscope → SEM

JSM-7800F ショットキ―電界放出形走査電子顕微鏡

走査電子顕微鏡は、医学・生物学の分野や、金属、半導体、セラミックスなど様々な分野で活用され、益々その用途を広げています。走査電子顕微鏡は、表面観察・分析用の豊富な付属装置や付属機器との結合により、その利用範囲を大幅に広げ、世界中の研究開発機関や品質検査の現場で、最も活躍する装置の1つとして使用されています。

電子を利用してミクロの世界を観察

走査電子顕微鏡 (以下 SEM と略します) は、光学顕微鏡(以下OMと略します)では観察不可能な微小な表面構造を鮮明に観察することができます。 さらに、焦点深度が深い像が得られることから、凹凸の激しい試料表面の構造を拡大して、私達が肉眼で物を見るのと同じような感覚で、三次元的な画像が観察できる装置です。

SEMは、透過電子顕微鏡(以下 TEM と略します)と同じように、試料の拡大像を観察するのに電子を用いています。電子は光に比べ波長が短いため、OMに比べて、より小さなものまで見ることができます。 どれ位小さなものが見えるかを分解能 (隣りあって存在する2点を見分ける時、この 2点間の最短距離…人間の目の分解能は 0.2mmといわれています。)という言葉で表わしますが、TEMの分解能は、0.1 ~ 0.3nmで、SEMの分解能は 0.5 ~ 4nmです。 SEM の分解能が TEM に比べて低いのは、 SEM で用いられる電子の加速電圧が 数kV ~ 数十 kV と低いために電子の波長が長くなっていることと、電子線を細く絞るための磁界レンズの特性の違いに由来します。

TEMでは、薄い試料を透過した(通り抜けた)電子線を蛍光面に衝突させ、その試料の拡大像を見ているのに対して、 SEMの場合は、試料の表面に電子をあてて、そこから反射、または発生してくる電子を検出器に捕捉して像を見ています。

なぜ、電子で試料を観察できるのか?

電子プローブが照射された部分からは、二次電子、反射電子、特性X線、光など種々の信号が、試料の形態、試料物質の密度、あるいは試料に含まれる元素に応じて放出されます。

走査電子顕微鏡(SEM)では通常、二次電子を検出して画像を作り観察しています。 二次電子は電子プローブが試料表面に入射する際の角度によって発生強度が変わるために試料表面の 微細な凹凸を二次電子の強弱として検出し表すことができます。

観察例(試料:実装基板)

簡単な操作で鮮明な立体像

さて、実際に生物試料を例にとって像観察の手順を述べてみましょう。
SEM で観察する生物試料には、試料作製という前処理が必要です。電子線を照射することによって、熱のため試料がこわれる場合もありますし、試料室内は真空ですから、筋肉等の生体試料は水分を取り除かねばなりません。水分を取り除くとき、試料が変形しないように化学薬品などを使ってタンパク質等を化学的に固定し、試料内に含まれる水分を取り除きます。そして、これを特殊な接着材等を用いて試料台に固定します。次に、金や白金パラジウムを使用して、スパッタ法や蒸着法により試料表面を金属粒子で薄く一様に被覆します。これは、試料表面の帯電を防ぐためと、二次電子の発生量を多くし、きれいな画像信号を得るためです。試料作製が終わったら、試料台を試料室の試料移動台に取り付けます。そして、試料室内を真空にするため、排気を行います。この排気システムは自動化されており、1分以内に排気が完了します。 これで準備が終わりました。

これから、装置の操作パネルのつまみを用いて像観察を行います。車の運転のような免許証がなくても、誰でも簡単に操作できます。加速電圧を例えば 20kV(カラーTVの電子のエネルギーとほぼ同じ)に設定します。高い加速電圧を用いる方が分解能は高くなりますが、試料のダメージも増加します。試料のごく表面を少ないダメージで見たい場合には、数kV の低い加速電圧が利用されます。次にフィラメントを加熱し、電子を放出させ、磁界レンズコントロールつまみで電子線のフォーカス(焦点)合わせを行います。一部の装置では、最近のカメラと同じようなオートフォーカス機能も用いられています。次に試料の観察倍率の調整です。低倍率で試料の観察したい位置捜しを行い、徐々に倍率を上げて、観察したい部分の拡大像を表示し、これを写真撮影します。

左の写真のようにSEMでは、光学顕微鏡に比べて焦点深度が深く、立体的な像を鮮明に見ることができ、これが大きな特徴です。
この写真は、低真空SEM像に擬似の色を付けたものです。

写真ご提供
東京学芸大学、生物
鶴原 喬教授、笠原秀浩氏

(固定/脱水後、試料管内で凍結乾燥後、金コーティング)

あらゆる表面観察や分析に活躍

走査電子顕微鏡は、タングステンフィラメントを電子源とする汎用的なものから、電界放出形電子銃を装着した高分解能・高倍率で観察が可能なものまで、様々なタイプがあります。

また元素分析用のX線検出器や、試料の組成の差を観察するための反射電子検出器、結晶解析用のEBSD(反射電子回折)などを追加することで、多彩な測定が可能となります。主なSEMの測定機能について、ご紹介します。(下表)

SEMの多彩な機能

二次電子像観察 二次電子を検出します。試料の凹凸の様子を観察できます。
反射電子像観察 反射電子を検出し、主に元素組成差の観察に利用できます。
多結晶試料では結晶面の傾きの差をコントラストの差として示すことができます。 (チャンネリングコントラスト)
吸収電子像観察 試料に吸収される電子を検出する事で、主に元素組成の差を見る事ができます。反射電子像の逆のコントラストになります。
透過電子像観察 薄膜試料を透過してくる電子を検出します。
薄膜試料の元素組成差や密度の差を見る事ができます。
カソードルミネッセンス像
観察とスペクトル解析
電子線照射により発光する試料の光を検出し画像にします。
またこの発光を波長分光して発光スペクトルを測定する事ができます。半導体などの不純物・欠陥評価、応力分布評価、酸化膜の欠陥構造分布評価、発光素子の評価などに用いられます。
EDS(元素)分析 Li を拡散させた Si 半導体検出器と多重波高分析器 (スペクトルアナライザー) の組合せで、X 線をそのエネルギーで識別し、スペクトルを得る分光器です。
分析元素範囲はB~Uで、全元素範囲の同時分析ができ、分析時のプローブ電流が小さくて済むため、試料ダメージが少なく、微小領域の分析に優れるなどの特長があります。
EBSD解析 試料表面で回折を受けた反射電子を検出します。微小領域の結晶方位同定と方位マップの測定に使用します。
WDS(元素)分析 結晶によるX線の回折現象を利用して波長スペクトルを得る分光器です。
エネルギー分解能が高い、検出感度が高い、などの特長をもちます。
EBIC測定、観察 電子線照射によって、試料内で発生した内部起電力を検出します。
半導体デバイスの欠陥部分析などに用いられます。
低真空機能 試料室の真空度を数十から数百パスカルの真空度にする機能です。
低真空状態で試料を観察する事により帯電が軽減されるため、難しい前処理(コーティング)無しで非導電性試料の観察ができます。
ガス放出の多い試料、蒸気圧の低い試料や含水試料の観察にも用いられます。
電子線露光機能 電子線によるレジスト描画が可能です。
クライオSEM観察 含水試料の水を凍結した状態で観察できます。固定、脱水の過程で生じる試料の変形を防ぐことができます。
加熱観察 試料を加熱して観察できます。
試料の膨張の様子や不純物の析出など、加熱による試料の変化を観察することができます。
引っ張り観察 試料を引っ張りながら観察できます。延性破壊の起点の観察や材料強度の解析に用いられます。