SpiralTOF™ とリニアTOFオプションによるタンパク質のインソース分解分析
MSTips No.229 日本電子株式会社 MS事業ユニット
マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)とインソース分解(ISD)を組み合わせてタンパク質やペプチドを分析すると、N末端やC末端からのアミノ酸配列情報が得られ、インタクトなタンパク質やペプチドのトップダウンシーケンシングに有効な手法である。既報[1]では、JMS-S3000 “SpiralTOF” を用いてペプチド標準品のMALDI-ISD分析における高い質量精度の有効性を示した。より分子量の大きいタンパク質のMALDI-ISDでは、高感度分析が可能なリニアTOFオプションが有効である。本報告では、JMS-S3000 “SpiralTOF” とリニアTOFオプションを用いてタンパク質標準品のMALDI-ISD分析を行ったので報告する。
実験
ミオグロビンと牛血清アルブミン(BSA)をそれぞれ0.1%トリフルオロ酢酸水溶液に10 pmol/μLの濃度で溶解した。MALDI-ISD分析でフラグメントイオンを多く生成できる1,5-diaminonaphtalene (DAN)をマトリックスに用いた[2]。DANは、0.1%トリフルオロ酢酸/50%アセトニトリル水溶液に10 mg/mLの濃度で溶解した。試料溶液とマトリックス溶液は等量混合し、1 μLをターゲットプレートに滴下した。
結果
ミオグロビンとBSAのSpiralモードとLinearモードで取得したマススペクトルをそれぞれFig.1、2に示す。両タンパク質のISDの開裂経路として、主にc-ionのシリーズが観測された。Linearモードを用いるとSpiralモードより全体的に高感度であり、その傾向は、特にm/z 5000以上でより顕著であった(右上の拡大図)。一方、Spiralモードでは高質量分解能・高質量精度での測定が可能であり、Linearモードの情報を補足することができる。
次に、Linearモードの結果を用いて、Mascotの MS/MS Ion searchでタンパク質のデータベース検索を行った。Fig.3は、 Fig.1のピークリストを用いたデータベース検索結果であり、ミオグロビンがヒットした。これは、MALDI-ISDがアミノ酸配列について十分な情報量をもち、Linearモードの質量精度でもデータベース検索が可能であることを示している。
【Fig.1 ISD Spectra of myoglobin (MW: 16,952Da) using (a) LinearTOF mode、(b) SpiralTOF mode.】
【Fig.2 ISD Spectra of BSA (MW: 66,430Da) using (a) LinearTOF mode、(b) SpiralTOF mode.】
【Fig.3 Mascot search result for the myoglobin sample.】
まとめ
本報告では、SpiralTOFとリニアTOFオプションを用いた標準品タンパク質のMALDI-ISDの測定例を報告した。Linearモードを使用することで高分子量のフラグメントイオンを感度よく検出でき、タンパク質のデータベース検索に有利に働くことが考えられる。
参考文献
- JEOL Applications note MSTips. 228
- Issey Osaka, Mami Sakai, Mitsuo Takayama, 5-Amino-1-naphthol, a novel 1,5-naphthalene derivative matrix suitable for matrix-assisted laser desorption/ionization in-source decay of phosphorylated peptides, Rapid Communications in Mass Spectrometry, Volume 27, Issue 1, pages 103–108, 15 January 2013.
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