GC/HRTOMSにおける光イオン化法 (PI) −PIマススペクトルの紹介−
MSTips No.230 日本電子株式会社 MS事業ユニット
ソフトイオン化法の1つである光イオン化法(Photoionization, PI)は既に弊社GC/QMS "JMS-Q1500GC"シリーズで製品化され、GC測定における簡便なソフトイオン化法として数多くのアプリケーションに利用されている。同様に、高分解能飛行時間型質量分析計である AccuTOF GCx 用にも、ほぼ同じ原理で動作する PI イオン源を開発し製品を提供している。PIは、AccuTOF GCxで使用可能なソフトイオン化法としては、CI、FIに続く第3のソフトイオン化法となり、これらのイオン化法を使い分けることにより、様々なアプリケーションに対応可能となる。PIイオン化法の特徴は以下の通りである。
- 重水素ランプを使用。放射波長115 - 400 nm (10.8 eV@115 nm)
- 試薬ガスを使用しないため、CIより簡便
- EI/PI共用イオン源として使用可能
- GC測定専用 (GCxGC測定可能)
- 精密質量測定可能
本MSTipsではPIイオン源概要について紹介し、また幾つかの化合物のPIマススペクトルを紹介する。
EI/PI共用イオン源
AccuTOF GCxのPI法では直接試料導入プローブ用のダイレクトEIチャンバを使用する。そのため、イオン源の大気開放及び部品交換を一切せずに、EIフィラメントのON/OFF、PI光源のON/OFFを行うだけでEIとPIの切り替えが可能である。極めて簡便にGC/EIとGC/PIを切り替えて測定することが可能である。一方で、ダイレクトEIチャンバに重水素ランプを取り付けることにより、元来プローブが挿入されるべき開口部分からイオン化室内に光を照射するため、直接試料導入プローブを取り付けることは出来ない。PIはあくまでGC測定用のソフトイオン化法として使用可能である。Fig.1にPIイオン源専用フランジと、イオン化室の模式図を示す。イオン化室にはEI用フィラメントと、PI用の重水素ランプが取り付けられており、これらのON/OFFにより容易にEIとPIを切り替えることができる。EIもしくはPIにて生成されたイオンは、ただちにTOFMS方向に飛行を開始し、順次質量分離され検出される。
【Fig.1 PI ion source flange (left) and ion chamber schematic (right)】
PIマススペクトル
Fig.2に炭化水素化合物のPIマススペクトルを示す。直鎖アルカンでは、分子イオンをメインピークとして観測し、アルキル基単純切断によるフラグメントイオンも僅かに観測された。PAHsではフラグメントイオンは観測されず、分子イオンのみが観測された。石油試料中のバイオマーカーであるステラン及びトリテルペンでは分子イオンをメインピークとして観測した。
Fig.3にその他の化合物のPIマススペクトルを示す。ハロゲン化アルキルでは分子イオンはベースピークとして観測されなかった。1級アルコール、 2級アルコールでは分子イオンは全く観測されず、H2Oが脱離したフラグメントイオンが強い強度をもって検出された。その他の化合物では分子イオンをベースピークとして観測され、多くの化合物で分子イオンを効率よくイオン化できることが確認できた。
AccuTOF GCxではPIにおいても容易に精密質量測定を行うことができる。またEIとPIを容易に切り替えて測定ができるため、ハードイオン化法であるEIデータと、ソフトイオン化法であるPIデータを迅速に得ることができる。EI及びPIで得た精密質量情報を組みわせることで、より確度の高い定性分析が可能となる。
【Fig.2 PI mass spectra】
【Fig.3 PI mass spectra】
謝辞
本MSTips作成にあたり、試料を提供していただいたLiège大学 Dr.Jean-François Focant教授に感謝致します。
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