GCxGC-HRTOFMSを用いた排ガス中の有機溶媒可溶成分 (SOF) 分析
MSTips No.236 日本電子株式会社 MS事業ユニット
はじめに
車両の排ガスには様々な化学物質が混在しており、それら構成成分を把握することはエンジン燃焼効率検証や排ガス浄化用触媒評価を行う上で必要不可欠である。GC-MSは排ガス中の有機溶媒可溶成分(Soluble Organic Fraction: SOF)が分析対象であるが、SOF中には未燃焼の燃料といった複雑な混合物が観測されることもあり、通常のGC分析ではそれら混合物をうまく分離できないケースがしばしば起こる。そのような場合、通常のGC分析よりもはるかに高いクロマトグラム分離能を有する包括的2次元GC(GCxGC)分析が有効である。
今回、公道用車両(4ストロークエンジン、マフラー有)とサーキット専用車両(2ストロークエンジン、マフラー無し)の排ガス煤を採取し、それらの溶媒抽出液をGCxGC/HRTOFMSシステムで分析したので報告する。
測定方法
測定条件を Table 1 に示す。試料の煤は、公道用車両(4ストロークエンジン、マフラー有)とサーキット専用車両(2ストロークエンジン、マフラー無し)の排気口にセラミックシートを取り付けた状態でアイドリングし、シートに付着させることで採取した。サンプリング後、セラミックシート3cm2にカットしたものをジクロロメタン3mLに浸し、10分間の超音波抽出を行った。抽出液を遠心分離し、上澄み液1mLを採取。さらに上澄み液1mLを50µLに濃縮し、測定に供した。
Table 1 Measurement condition
Instrument | AccuTOF™ GC series |
---|---|
1st column |
BPX5, 30m x 0.25mm, 0.25μm |
2nd column |
BPX50, 2m x 0.1mm, 0.1μm |
Modulator period |
12 sec |
Inlet mode |
Splitless, 1μL |
Oven temparature |
50°C(1min) -> 3°C/min -> 350°C(5min) |
Ionization mode |
EI+ (70eV, 300μA) |
m/z range |
m/z 35-800 |
Spectrum recording speed |
25 spectra/sec |
結果
Fig.1に得られたGCxGC TICクロマトグラムを示す。今回のGCxGCカラムセットでは、1stカラムに微極性、2ndカラムに中極性カラムを使用しており、横軸方向は沸点順、縦軸方向は極性順で、それぞれの成分が溶出する。
公道用車両(4ストロークエンジン、マフラー有)とサーキット専用車両(2ストロークエンジン、マフラー無し)の排ガス煤測定データを比較すると、公道用車両データの方が検出成分数は少なく、SOFがより少ないクリーンなガスを排出していることが明確であった。サーキット専用車両データでは未燃焼と思われる燃料由来の炭化水素化合物類が数多く検出され、特に飽和炭化水素化合物の量が多い結果が得られた。また、サーキット専用車両データでは多数の多環芳香族化合物も確認された。多環芳香族化合物の分析例として、Fig.1中のピークA、B、C、DのEIマススペクトルをFig.2に示す。ライブラリ検索と分子イオンの精密質量解析を行った結果、これら化合物はそれぞれ Methylenephenanthrene、Pyrene、Acepyrene、Anthanthrene と推定された。その他の主だった成分について同様な解析を行った結果、多くの有機化合物を推定することができた。
排ガス中に存在する複雑な混合物であっても、GCxGCによる高いクロマトグラム分離能と、HRTOFMSによる精密質量解析を組み合わせることで網羅的に分析することが可能であった。

Fig. 1 GCxGC/EI TIC chromatograms (a) 4 stroke engine vehicle, (b) 2 stroke engine vehicle

Fig. 2 EI mass spectra and NIST database search result for the peak A, B, C and D in Fig.1 (b)
※測定は、ZOEX社製のGC×GCシステムを使用
※GC×GCクロマトグラムは、image社製ソフト"GC image"で作成
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