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熱分解GCxGC-MSによる天然高分子の定性分析 - GCxGC/EI法及びGCxGC/PI法を用いた漆膜の分析 - [GC-TOFMS Application]

MSTips No.245

はじめに

天然高分子である漆は、古来より塗料や接着剤として活用されている。近年、紙や材木の素地に漆を塗り重ねて作られる伝統工芸品"漆器"は、美術品・お土産・日用品など様々な用途で楽しまれている。漆は油中水球型のエマルションであるが、硬化した漆膜の分析、酵素酸化反応機構の解明などには、熱分解GC-MS法が活用されてきた。しかし、熱分解GC-MS法では生じる熱分解生成物が非常に多く、通常のGC分離能では観測成分の分離が不十分なケースがあった。
そこで今回、通常のGC法よりも高い分離能を有する包括的二次元GC法(Comprehensive two dimensional GC: GCxGC)を用いた漆膜の分析を試みた。測定データの検出には高分解能・高速測定が可能なガスクロマトグラフ飛行時間型質量分析(GC-TOFMS)を用いた。また、イオン化法はハードイオン化法であるEI法と、ソフトイオン化法であるPI法を用いて、両イオン化法で得られたマススペクトルの比較も行った。

測定条件

熱分解GCxGC/TOFMS条件をTable1に示す。試料量はGCxGC/EI測定では0.1mg、GCxGC/PI測定では0.6mgとした。

Table 1 Measurement condition
[Py-GCxGC-TOFMS condition]

System JMS-T200GC (JEOL)
Pyrolysis temp. 500°C
Ionization mode EI+: 70eV, 300μA
PI+: D2 lamp: 115 - 400 nm
(10.8eV@115nm)
GC column 1st: BPX5 (SGE社製), 30m x 0.25mm, 0.25μm
2nd: BPX50 (SGE社製), 3m x 0.1mm, 0.1μm
Modulation period 8sec
Oven temp. 50°C (1min)->3C° /min->300°C (6min)
Inlet temp. 300°C
Inlet mode Split50:1
He flow 1.5mL/min (Constant Flow)
m/z range m/z 35-650
Recording interval EI: 50Hz, PI: 25Hz

結果

Fig.1にGCxGC/EI及びGCxGC/PI TICクロマトグラムを示す。両TICクロマトグラム上で、主成分であるウルシオールを確認することができた。また漆膜の熱分解生成物である炭化水素化合物、カルボン酸、芳香族ケトン、アルキルフェノールなどの化合物群を分離して検出することができた。GCxGC/EIデータを用いた自動ピーク検出を行ったところ1000成分以上が検出された。

次にアルキルカテコール類(ウルシオールはその中でアルキル基C15のものが中心)のEIマススペクトルにおける特徴的なフラグメントイオンm/z 123.044 (C7H7O2)を用いたGCxGC/EI 抽出イオンクロマトグラム (EIC)をFig.2に示す。EICの中央、2ndカラムの保持時間4秒付近に、アルキルカテコール類が検出された。アルキル基の鎖長R1からR9の化合物が顕著に観測されており、R15のウルシオールも観測された。

またアルキルカテコール類の異性体であるアルキルオルシノール類と考えられる成分が2ndカラムの保持時間5秒付近に観測された。アルキルオルシノール類はマイナー成分であり、今まで漆膜の熱分解GC-MS分析ではあまり着目されてこなかった成分である。通常のGC測定では成分分離が不十分なため、主成分であるアルキルカテコール類と共溶出していたことも、着目・分析されてこなかった理由であると考えられる。しかし、このようなマイナーで且つ共溶出してしまう異性体化合物もGCxGCであれば、その高分離能により明確に分離して検出することができる。
検出したアルキルカテコール類(R15)のうち、3-Pentadecyl catecholと3-Pentadecenyl catecholのEI、PIマススペクトルをFig.3に示す。EI、PIマススペクトルにおいて分子イオンを検出しており、観測イオンのm/z値は高い質量精度をもって上記化合物の分子組成式の精密質量理論値と一致した。特にPIでは分子イオン以外のフラグメントイオンは観測されていないシンプルなマススペクトルが得られており、ターゲット化合物分析に有用であると考えられる。

まとめ

天然高分子のキャラクタリゼーションにおいては、主成分のみならずマイナー成分についても解析・検討することで今までとは異なる知見が得られる可能性がある。しかし、天然高分子は複雑な系が多く、従来の分析法ではGC分離能の問題からも主成分のみが着目されてきた。しかし、GCxGCでは今まで着目されなかったマイナー成分であっても、その高分離能により明確に分離して検出することが可能になる。熱分解GCxGC測定は、天然高分子の分析・解析に有用なツールであると考えられる。

GCxGC/EI and PI TIC chromatograms

Fig.1 GCxGC/EI and PI TIC chromatograms

GCxGC/EI EIC chromatogram using m/z 123.0441 (C7H7O2)±0.01

Fig.2 GCxGC/EI EIC chromatogram using m/z 123.0441 (C7H7O2)±0.01

Mass spectra for 3-Pentadecyl catechol (left) and 3-Pentadecenyl catechol (right)

Fig.3 Mass spectra for 3-Pentadecyl catechol (left) and 3-Pentadecenyl catechol (right)

※測定は、ZOEX社製のGCxGCシステムを使用。
※GCxGCクロマトグラムは、GC image社製ソフト"GC image"で作成。

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