TG-MSによるフッ素樹脂の定性分析 ーTG-TOFMSシステムによる高質量域測定例のご紹介ー
MSTips No.249
はじめに
熱重量分析(Thermogravimetry: TG)は、試料加熱における重量変化を測定し試料の熱物性を得ることができる手法である。TGと質量分析計(MS)を接続することで、重量変化時に発生する有機物の定性分析を行うことが可能になる。TG-MSとしては小型汎用機である四重極型質量分析計が用いられることが多いが、四重極型質量分析計の測定可能な質量範囲上限はm/z 1000程度のため、オリゴマー領域の合成高分子や、高分子量化合物の測定が行えない。
そこで今回、測定可能な質量範囲上限が広い飛行時間型質量分析計(TOFMS)を用い、TG-TOFMSによるフッ素樹脂の測定を試みた。
測定条件

Fig.1 TG-TOFMS system
今回使用したTG-TOFMS概観写真をFig.1に示す。
TGはNETZSCH社製 熱重量/示差熱同時分析装置STA2500Regulusを用い、TOFMSは日本電子製 飛行時間型質量分析計JMS-T200GCを用いた。今回の測定条件をTable1に示した。なお、GCオーブンは恒温槽として用い、その温度は350°C固定とした。
Table 1 Measurement condition
[ TG-TOFMS condition ]
System | JMS-T200GC (JEOL), STA2500Regulus(NETZSCH) |
---|---|
Furnace temp. | 50°C→10°C/min→ 650°C |
Transfer line temp. | 400°C |
Atmosphere gas flow | He, 100mL/min (open-split system) |
Ionization mode | EI+: 70eV, 300μA |
m/z range | m/z 35-3,200 |
結果
フッ素樹脂(5mg)のTG-TOFMS測定結果をFig.2に示す。
TG曲線は500°C付近から重量減少を始め、600°Cで重量減少は停止した。550°C付近のマススペクトルを作成したところ、Fig.3に示すように、フッ素樹脂由来の繰り返し単位をもつ高質量イオンが多数観測された。テフロン樹脂由来のイオンはm/z 2500付近まで確認することができた。
Fig.2には、m/z 1531、1831、2031、2393、2543のEICクロマトグラムを示しているが、各EICクロマトグラムのピーク位置とTG曲線が示す重量減少は一致していた。500°Cから600°Cの間で、フッ素樹脂の熱分解反応が生じ、それによって生成された熱分解生成物がイオン化されて検出されたと考えられる。
m/z 1600付近の拡大図をFig.3下段に示す。CF2(50 Da)間隔でイオンが観測されており、またメインのシリーズからF2(38 Da)の質量差に相当するシリーズも観測された。

Fig.2 TG curve and EIC chromatograms for high m/z ion

Fig.3 EI mass spectrum at 550°C
まとめ
TG-TOFMSは測定可能な質量範囲が通常のTG-QMSよりも広く、オリゴマー領域の合成高分子の測定に使用できることが示された。
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