レーザー脱離イオン化法,電界脱離イオン化法による有機顔料の測定例
MSTips No.258
はじめに
材料分野における試料の中には、溶媒に不溶性・難溶性の化合物もある。たとえば有機顔料などもその一例である。不溶性・難溶性の化合物の場合、質量分析におけるイオン化法が限定されてしまうが、今回はJMS-S3000 [SpiralTOF™] と、JMS-T200GC [AccuTOF™GCx plus] を用いて、市販されている有機顔料の分析を行った。JMS-S3000ではマトリックスを使用しないLDI(Laser Desorption Ionization)法にて、JMS-T200GCではFD(Field Desorption)法にて測定を行ったところ、どちらも良好な結果が得られたので報告する。
試料及び測定条件
試料の有機顔料(フタロシアニン銅及びピグメントグリーン7)は、少量をTHF溶液に分散させた懸濁液を用いた。 LDI法では、ターゲットプレートに懸濁液をスポットし、FD測定では、懸濁液をエミッタ—にマイクロシリンジで塗布した。 試料に用いた有機顔料と、各測定条件を以下のTable1,2に示す。

Table 1 Chemical structures of copper(II) phthalocyanine (α-form) and pigment green 7
イオン化法 | LDI( 正イオンモード / 負イオンモード ) | FD(正イオンモード) |
装置 | JMS-S3000 [SpiralTOF™] | JMS-T200GC [AccuTOF™GCx plus] |
測定モード:スパイラルモード 固体レーザー:波長349nm |
カソード電圧:-10kV プローブ条件:0mA-51.2mA/min-50mA |
Table 2 Measurement conditions
結果及び考察
Fig.1にフタロシアニン銅のマススペクトルを示す。 LDI正イオンモード、FD正イオンモードともにm/z 575に分子イオンM+・が観測された。 分子イオン以外のイオンはほとんど観測されなかった。Fig.2に、ピグメントグリーン7のマススペクトルを示す。 LDI正負イオンモード、FD正イオンモードともにm/z 1126(Most Abundant)に分子イオンが観測された。 また、LDI正イオンモードでは、低質量側にフタロシアニン銅を中心とするサンプル由来成分を複数観測し、同様のピークはFD正イオンモードでも僅かに観測された。 FD正イオンモードにおいて、この成分はピグメントグリーン7よりも低い電流量(すなわち低い温度)で観測されたことから、フラグメントイオンではなくサンプルに元から含まれる不純物と考えられる。 加えて不純物成分はより低い温度でFDイオン化されていることから、熱による脱離効率は主成分に比べて高いと考えられる。 LDI正イオンモードとFD正イオンモードで観測された不純物成分のイオン強度の違いは、両イオン化法におけるイオン化の過程や、上述の通り成分毎に脱離効率が異なることによると推測される。 脱離・イオン化がほぼ同時に起こるLDI正イオンモードでは、脱離効率が高いと考えられる不純物成分がより顕著に観測されたと考えられる。 一方LDI負イオンモードでは、含まれている塩素原子の数が10以下の成分は検出されていないことから目的成分を選択的に観測できた。 FDではできない負イオンモードを利用できるのは、LDIの特徴ともいえる。 今回、LDI法とFD法にて有機顔料成分を測定することが出来た。懸濁液を直接サンプリングでき、さらに短時間で測定が可能であり、どちらも定性分析の有用なツールとなることがわかった。

Fig.1 Mass spectra of copper(II) phthalocyanine (α-form) using LDI positive and FD positive ion mode.

Fig.2 Mass spectra of pigment green 7 using LDI positive, LDI negative and FD positive ion mode.
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