DARTイオン化による臭素系難燃剤の分析
MSTips No.287

Fig. 1 DART™ ion source
Direct Analysis in Real Time (DART) は、アンビエントイオン化法の一種で、大気圧下、開放系で気体・液体・固体など様々な形態の試料や極性/非極性化合物に対して前処理なしに直接分析できるため、簡便で迅速なイオン化法として、いろいろな分野で活用されている。DART™イオン源は、JEOL製飛行時間質量分析計AccuTOF™に装備し、開発された。
AccuTOF™シリーズの大気圧インターフェイスは堅牢で汚れに対する高い耐久性をもち、DART™に用いられるヘリウムガスを特別な補助手段(VAPURなど)の追加なしに排気可能である。そのため、サンプル導入のための空間を比較的自由に確保でき、様々な形態のサンプルに対応が容易となる。また、他社製品へのDART™イオン源接続では必須のVAPURが不要であり、プロトン親和力の低いイオンの消失などをはじめとする諸問題も回避することができる[1]。本報告では、このような特徴を活かし、耐衝撃性ポリスチレンに添加した、デカブロモジフェニルエーテル、トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジン、テトラブロモビスフェノールA、ヘキサブロモシクロドデカンを容易に検出できたので報告する。
実験
サンプルは、デカブロモジフェニルエーテル、トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジン、テトラブロモビスフェノールA、ヘキサブロモシクロドデカンを下記の割合で添加した耐衝撃性ポリスチレンを用いた(Table 1)。装置および測定条件をTable 2に示す。
Table 1 Brominated flame retardants in high impact polystyrene
化合物 | 組成式 | 添加量 |
---|---|---|
デカブロモジフェニルエーテル | C12OBr10 | 1% |
トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジン | C21H6N3O3Br9 | 1% |
テトラブロモビスフェノールA | C15H12Br4O2 | 5% |
ヘキサブロモシクロドデカン | C12H18Br6 | 5% |
Table 2 Measurement conditions
装置 | |
---|---|
質量分析計 | JMS-T100LP "AccuTOF™" シリーズ |
イオン源 | DART™ SVP |
測定条件 | ||
---|---|---|
イオン化モード | DART (+) | DART (-) |
Heガスヒーター温度 | 500°C | 400°C |
オリフィス1電圧 | 20 V | -20 V |
結果
Fig. 2-5に、デカブロモジフェニルエーテル、トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジン、テトララブロモビスフェノールA、ヘキサブロモシクロドデカンのマススペクトルを示す。ヘキサブロモデカンのみ負イオンモードでイオンを検出できた。Fig. 2にデカブロモジフェニルエーテルのマススペクトルを示す。960付近のピークが観測されたが、これは同位体パターンからM+・と[M+H]+が同時に観測されると推定した(イオン量としては[M+H]+が多い)。また、m/z 879付近に臭素原子が1つ脱離したピークも観測された。次に。Fig. 3にトリス(トリブロモフェノキシ)トリアジンのマススペクトルを示す。m/z 1067付近の同位体パターンから[M+H]+が観測された。

Fig. 2 Mass spectrum of decabromodiphenyl ether

Fig. 3 Mass spectrum of 2,4,6-Tris(2,4,6-tribromophenoxy)-1,3,5-triazine
Fig. 4にテトラブロモビスフェノールAのマススペクトルを示す。 m/z 544付近の同位体パターンからM+・として観測された。比較的低分子ゆえに共雑物の影響も大きいが、高い分解能により他のピークとの分離ができている。最後にFig. 5にヘキサブロモシクロドデカンのマススペクトルを示す。m/z 641付近の同位体パターンから[M-H]-として観測された。また、そのほかに80u大きい、[M+Br]- も顕著に観測された。

Fig. 4 Mass spectrum of tetrabromobisphenol A

Fig. 5 Mass spectrum of Hexabromocyclododecane
参考文献
[1] MSTips No.221 DART™とアンビエントイオン化法にとって理想的な構造を持ったAccuTOF™ LCシリーズの大気圧インターフェイス
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