GCキャリアガスに窒素を用いた場合のEIFI共用イオン源およびPIイオン源の検出感度の確認
MSTips No.299
はじめに
ヘリウム生産量の減少に伴う世界的なヘリウム供給・在庫不足が、様々な関連機関に深刻な問題を招いている。ガスクロマトグラフ-質量分析計(GC-MS)を使用するラボでは、標準のGCキャリアガスとしてヘリウムガスを用いていることから、代替キャリアガスとして、窒素ガス(N2)の使用を視野に入れる必要性が出てきている。MSTips No. 200では、GC-HRTOFMSのEI標準イオン源EI+モードにおいて、HeとN2をGCキャリアガスに用いた場合の感度比較を行った。その結果、N2をGCキャリアガスとして用いる場合、Heの場合のそれと比べて検出感度が1/18であることが報告されている。
本報告では、GC-HRTOFMSのEIFI共用イオン源、PIイオン源において、HeとN2をGCキャリアガスに用いた場合の感度比較を行った。
実験
測定条件をTable 1 に示す。GCカラムには、DB-5MS (30m ×0.25mm×0.25um)を用いた。HeおよびN2両方のキャリアガスによる測定を行った。試料には、EIFI共用イオン源EI+、FI+とPIイオン源 PI+の評価にそれぞれ、オクタフルオロナフタレン (OFN 100pg/μL、ヘキサデカン 10ng/μL、ベンゾフェノン 100pg/μLを用い、1 μL注入した。
Table 1 Measurement conditions
Instrument | JMS-T200GC |
Injection mode | Splitless |
Column | DB-5MS (Agilent Technologies), 30m ×0.25mm, 0.25μm |
Oven Temp. | 40°C(1min)- 30°C/min – 250°C(2min) |
Injection mode | Split 1/50 |
Inlet Temp. | 300°C |
Oven temp. | 80°C→50°C/min→200°C→25°C/min→350°C |
Carrier Flow | He 1.0 mL/min, N2 0.55 mL/min |
Ion Source temp. | 250°C |
結果
まず、はじめにEI/FI共用イオン源を用いた場合のHe、N2キャリアガスの感度比較を行った。EI/FI共用イオン源EI+モードにてHe、N2キャリアガスを用いてOFN 100pgを測定して得られた抽出イオンクロマトグラム (m/z 271.976±0.01)をFigure 1に示す。両キャリアガスを用いた場合のOFNのSN比はほぼ同等であった。MSTips 200ではEI標準イオン源EI+モードでの測定の場合には、N2キャリアガスを用いると感度低下が見られると報告されており、今回の結果とは異なる。その理由としては、EI/FIイオン源は開放型イオン源であるため、感度低下の要因となるイオン源内のチャージアップ現象の影響が少ないためではないかと推測される。
Figure 1 EIC of OFN 100pg of EI+ mode of EI/FI ion source using He and N2 as GC carrier gas
次にEI/FI共用イオン源FI(+)モードでHe、N2をGCのキャリアガスとして用いてヘキサデカン 10ng を測定して得られた抽出イオンクロマトグラム (m/z 182.073±0.01)をFigure 2に示す。両キャリアガスを用いた場合のヘキサデカンのSN比はほぼ同等であった。これは、EI/FI共用が開放型であるのと合わせて、FI法ではキャリアガスのN2がイオン化しないからだと考えられる。
Figure 2 EIC of Hexadecane 10 ng using FI+ mode of EI/FI ion source with He and N2 as GC carrier gas
最後にPIイオン源PI+モードでHe、N2をGCのキャリアガスとして用いてベンゾフェノン 100 pg を測定して得られた抽出イオンクロマトグラム (m/z 226.265±0.01)をFigure 3に示す。両キャリアガスの抽出クロマトグラムのS/Nは比較するとやはり同等であった。PIイオン源は密閉型であるものの、PI+によりN2がイオン化しないことから、チャージアップによる影響もなく、キャリアガスによる差異がなかったと推測される。
Figure 3 EIC of Benzophenone 100pg using PI+ mode of PI ion source with He and N2 as GC carrier gas
まとめ
EI/FI共用イオン源のEI+、FI+モードおよび、PIイオン源を用いたPI+モードについて、He、N2をGCのキャリアガスとして用いた場合の感度差について検証を行った。開放型のEI/FIイオン源では、キャリアガスのイオン化効率が低いFI+モードにてほとんど感度差がないのに加え、チャージアップの影響が懸念されたEI+モードでも感度差はなかった。また、密閉型のPIイオン源では、PI+でのN2のイオン化効率が低く、やはりHe、N2をGCキャリアガスとして用いた場合に感度差はなかった。これらの結果は現在主流となっている、EI法とFI法、PI法などのソフトイオン化の結果を統合解析する場合において、N2をGCキャリアガスに用いても影響がないことを示唆する。
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