臭素化難燃剤:ポリ臭素化ジフェニルエーテル (PBDEs) のGC/MS分析(1):WEEE・RoHSへの対応 [GC-QMS Application]
MSTips No.24
はじめに
2006年7月から欧州連合 (EU) 各国では、廃電気電子機器リサイクル指令 (WEEE:Waste Electrical and Electronic Equipment) と特定危険物質の使用制限指令 (RoHS:Restrictions on Hazardous Substances) が施行される。未だ規制内容自身に不透明な部分が多いが、RoHS指令では、鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、PBBs (ポリ臭素化ビフェニール) そしてPBDEsの6種類の化合物が使用規制物質となることが予定されている。この規制にクリアしなければEUに対して製品の供給が行えなくなるため、EUに限らず世界各国の関係企業は対応を急がれている。なかでもPBBsとPBDEsに関しては、環境への影響に対する考慮が先行し、分析法の確立が後回しとなっているのが現状である。施行まで2年間の準備期間があるが、実際の分析試料は非常に多く、早急な分析法の確立が必要である。
弊社では、プラスチック材料中のPBDE及びPBBの分析法として、蛍光X線分析法によるスクリーニングによって臭素化合物の確認を行い、さらに含臭素化化合物試料について、優先的にGC/MSによる定性及び定量分析を実施することを提案している。
既に弊社の3機種の質量分析計 (JMS-700、GCmateⅡ、JMS-K9) については、8臭素化ジフェニルエーテル (OcBDE) を用いて検出感度の比較を行い、検量線による直線性を確認している。PBDEsやPBBsは分子量が1,000近くの物質であり、さらに精密質量数が整数値から大きく離れる化合物ながら、QMSであるJMS-K9でも2 ppbレベルの高感度検出が可能であり、さらにGCmateⅡ、そしてJMS-700ではさらに2桁高感度であった。現実的には、非常に多くの試料が存在し、迅速且つ低コストでの測定が求められているため、QMS装置が主要の測定装置となることが推測される。
そこで今回JMS-K9によるDeBDEの定量精度に関する確認を行ったので報告する。
実験
はじめにDeBDEの標準試料の測定により検量線を作成し、さらに (株) 分析センターより販売されている1000wt ppmのDeBDEが混入したABS樹脂 (ACABS201) を実試料として溶媒抽出から測定まで行い、定量的な確認を行った。
まず検量線用試料は、トルエン溶液で 0.05, 0.1, 0.2, 0.5, 1, 2, そして5 μg/mL (ppm) の7点を調整した。一方ABS樹脂は、6 mgをTHF 1 mLに溶解し、トルエン3 mL とヘキサン2 mL を加えて遠心分離後、上澄み液を測定試料とした。よって上記試料のDeBDE濃度は、およそ1 ppmとなる。GC/MSによる測定は、分離カラムにDB-1の長さ15 m、内径0.25 mm、膜厚0.1 μmを使用し、フラグメントイオンであるm/z 797.4、799.4 及び 801.4 の3チャンネルのSIM法で行った。GC/MS測定条件を表1に示した。また、0.05 及び0.1 ppmの標準試料及びABS樹脂実試料に関しては、それぞれ5回の連続測定とし、再現性による定量下限値を算出した。
表1 GC/MS条件
測定対象化合物 | 10臭素化ジフェニルエーテル (DeBDE) |
---|---|
標準試料濃度 | 0.05, 0.1, 0.2, 0.5, 1,2,及び 5 ug/mL (ppm) |
実試料 | 1000wt ppm DeBDE 含有 ABS (ACABS201;株式会社分析センター) |
抽出試料濃度 | 1 ppm (wt/vol) |
装置 | JMS-K9 (四重極質量分析計) |
GC | |
使用カラム | J&W DB-1 15 m×0.25 mm (膜厚:0.10 μm) |
カラム流量 | He, 2.0 mL/min |
昇温条件 | 70°C(2min) →30°C/min →250°C →10°C/min →320°C (2min) |
インジェクター温度 | 300°C |
注入量 | 2μL (Splitless) |
MS | |
イオン源温度 | 280°C |
インターフェース温度 | 280°C |
イオン化条件 | イオン化電圧;70 eV, イオン化電流;300 μΑ |
分解能 | Unit resolution |
測定モード | SIM法 検出イオン;m/z 797.4, 799.35, 801.35 |
サイクルタイム | 0.45秒 (各チャンネル;0.15秒) |
結果と考察
図1に標準試料における試料濃度0.1及び1 ppmと実試料におけるDeBDEのSIMクロマトグラムを示す。図1より、DeBDEは良好なピーク波形で保持時間14:16に溶出していることが確認された。
図1 各試料におけるDeBDEのSIMクロマトグラム
図2 JMS-K9によるDeBDEの検量線
次に検量線を図2に示す。図2より、相関係数が0.9999と非常に良好な直線性が得られた。各試料濃度のピーク面積値を検量線に照らし合わせることによって得られた定量値を用いて、繰り返しデータによる再現性から定量下限値を求めた。表2にその結果を示す。
表2に示すように、各試料において、良好な再現性が確認された。標準試料の0.05ppmの結果では、若干CV%が高いものの定量精度としては問題ないレベルが得られた。さらに定量値の標準偏差 (σ) を10倍にした定量下限値は、0.05 ppm及び0.1 ppmともに0.06 ppm程度の値となり、非常に高感度かつ高精度な測定結果が得られた。
一方、実試料においては算出された定量値の平均が0.77 ppmであることから回収率は77.6 %となり、十分な回収率であることが確認された。今回実施した抽出方法では、測定試料中に残存する高分子成分をできる限り簡易に減らすために、ヘキサン溶媒を加えことによって高分子成分を沈殿させているが、その際に DeBDEの一部が沈殿相に移行することが考えられ、それが回収率を低下させた原因と考えられる。しかし、図1に示した実試料のSIMクロマトグラムでは、特別なクリーンナップ操作を行わないにもかかわらず、良好なピークプロファイルが検出されており、夾雑物の影響は非常に少ないことが確認されている。また、表2においてもCV%で4.1%という良好な再現性が得られている。以上のことから、今回の測定方法は、前処理も含めて十分有効であると考えられる。
表2 再現性結果
標準試料 | 実試料 | ||
---|---|---|---|
0.05 ppm | 0.1 ppm | (1 ppm) | |
1回目 | 0.067 | 0.108 | 0.793 |
2回目 | 0.065 | 0.106 | 0.800 |
3回目 | 0.054 | 0.099 | 0.789 |
4回目 | 0.059 | 0.106 | 0.774 |
5回目 | 0.068 | 0.093 | 0.722 |
平均値 | 0.063 | 0.102 | 0.776 |
標準偏差 | 0.0062 | 0.0060 | 0.0314 |
CV% | 9.8 | 5.9 | 4.1 |
定量下限値(10σ) | 0.062 | 0.060 | - |
回収率(%) | - | - | 77.6 |
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