FIB の加工特性:エッチングレート
はじめに
FIB(集束イオンビーム装置)は、その加工精度の高さと加工スピードの速さからTEM(STEM)用の薄膜試料作製に幅広く活用されている。本項ではFIBの様々な加工特性を紹介する。
Ga+イオンのスパッタリング特性とその特徴
Ar+イオンやGa+イオンによる試料のエッチング原理はFig.1に示すスパッタリング現象で説明できる。入射イオンは試料内に進入し、表面で中和され試料原子にエネルギーを与える。エネルギーを受けた試料原子は位置が変位する。この現象はノックオンと呼ばれている。このノックオンが繰り返されることをカスケード衝突と言い、この過程で試料原子が真空外へはじき出される現象がスパッタリングである。このスパッタリングが連続して起こることにより試料はイオンエッチングされる。集束されたGa+イオンビームにおいても同様な原理で試料のスパッタリング加工が可能となる。
その際、イオンの注入や試料を構成する原子位置の変位がダメージに繋がり、場合によっては取得データの解釈に障害を与えることがある。Fig.2~5に実験(JEM-9320FIB)によって得られたGa+イオンビームのスパッタリング特性を示す。Fig.2はGa+イオンビームのDose:nC/(μm)2とエッチングレート(エッチング深さ)の関係を示す。Dose量を増やすとほぼ線形にエッチングによる深さが増加することがわかる(試料:シリコン単結晶)。Fig.3はDose量と加工時間の関係を示す。

Fig.1 スパッタリングの原理図 スパッタリング現象の原理図を示す。

Fig.2 Dose 量とのエッチング深さの関係(JEM-9320FIB,30kV 試料:Si単結晶)
Dose 量を増加させるとほぼ線形にエッチング深さが増加する。

Fig.3 Dose量と加工時間の関係(計算値:JEM-9320FIB,30KV)
Dose量を増加させると線形にエッチング時間が増加する(本数値は自動的に計算される)。
Fig.4はGa+イオンビームの試料への入射角度 (法線方向を0°とする)とDose量:10nC/(μm)2当たりのエッチング深さの関係を示す。試料は多結晶のCuと単結晶のSiを用いた。Arイオンの場合と同様、Ga+イオンビームの入射角度65°でエッチング深さが最大となることがわかる。
Fig.5は元素別の単位Dose量:1nc/(μm)2あたりのエッチング深さを示す。Si以外の試料は全て多結晶を用いている。元素によってエッチングされる深さは大きく異なることがわかる。

Fig.4 Ga+イオンの入射角度とエッチング深さの関係(JEM-9320FIB,30kV)
イオンの照射角度を変えるとエッチング深さが変化する。照射角度65°(法線方向を0°とする)付近でエッチング深さが最大になる。これはAr+イオンと同じ傾向である。

Fig.5 素別の単位Dose量1nC/(μm)2当たりのエッチング深さ(JEM-9320FIB,30kV)
元素別のエッチング深さを示す。Si以外は全て多結晶の値。
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