Cryo-FIB を用いた高分子エマルジョンの観察
鈴木俊明* 長澤忠広*
*日本電子株式会社 SM事業ユニット SMアプリケーショングループ
はじめに
水性の接着剤であるポリ酢酸ビニル=エマルジョンは低ガラス転移点(Tg)の含水試料である。Cryo-SEMはこれらの試料を凍結状態で観察 (Fig.1)できる。また、Cryo-SEMには割断用の冷却ナイフが内臓されており試料の割断面を観察することもできる。ポリ酢酸ビニル=エマルジョンをCryo-SEMで粒子の割断面の観察をすると内部に微細な構造があるかのような像(Fig.2)が得られる。この像は実際に内部構造があるという可能性と、割断によるアーティファクトの可能性が考えられる。今回マルチビームシステムJIB-4600FにGatan製のCryoシステムのALTO2500(付図 1~3)を取り付け、ポリ酢酸ビニル=エマルジョンを凍結状態でFIBによる断面加工/SEM観察を可能とし、断面構造の検証を行った。また、同試料でクライオミクロトームによる凍結切片の作製も行い、Cryo-TEMで併せて検証を行った。
実験及び結果
本装置によりポリ酢酸ビニル=エマルジョンを凍結状態でFIBによる断面加工/SEM観察を試みた結果、割断時に見られるような微細な構造は無く平滑な断面像(Fig.3)が得られた。また、クライオミクロトームによる凍結切片のTEM観察でも同様な結果(Fig.4)が得られており、ポリ酢酸ビニル=エマルジョンの粒子には内部構造が無い可能性が大きいことがわかった。このようにCryoシステムとマルチビームシステムを組み合わせたCryo-FIB によりポリ酢酸ビニル=エマルジョンの粒子構造に関し新しい知見を得ることができ非常に有効であることがわかった。

Fig.1 Cryo-SEMによるポリ酢酸ビニル=エマルジョンの乾燥によるフィルム化の観察

Fig.2 Cryo-SEM/フリーズフラクチャによるポリ酢酸ビニル=エマルジョンの割断面の観察
いずれの結果からも割断面に微細な構造が観察される。

Fig.3-1 FIBによりボックス加工された部分のSIM像

Fig.3-2 断面のSEM像

Fig.4 凍結切片のTEM像
凍結状態でFIB加工(Fig.3-1)した断面をSEM観察した結果、断面は無構造であることが推測された(Fig.3-2)。また、同種の試料の凍結切片のTEM像(Fig.4)からも無構造であることが推測される。

付図1 JIB-4600Fに取り付けたALTO2500

付図2 ALTO2500システムの構成

付図3 ALTO2500の温度特性
ALTO2500を取り付けたJIB-4600Fの外観を示す(付図1)。本システムは液体窒素で冷却されたN2ガスをチューブに流し冷却フィンとステージを冷却するSEMステージ部分と、割断やコーティングを行うプレパレーションチャンバ部分の2つのユニット(付図2)に分かれる。本システム特有の冷却機構により、ステージの冷却速度は速く(付図3)、金属の熱伝導線による冷却機構でないため温度変化に伴うステージのドリフトが非常に少ない。
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