代替キャリアガスとして窒素ガスを用いた場合の検出感度の確認
MSTips No.200
はじめに
ヘリウム生産量の減少に伴う世界的なヘリウムの供給・在庫不足が、様々な関連機関に深刻な問題を招いている。特にガスクロマトグラフ-質量分析計 (GC-MS) を使用するラボでは、標準キャリアガスとしてヘリウムガスを用いていることから、代替ガスの使用を視野に入れる必要性がでてきている。
そこで今回、GC-HRTOFMSであるJMS-T100GCV "AccuTOF™ GCv 4G"において、代替えキャリアガスとして窒素ガス(N2)を使用した場合の装置感度を確認したので報告する。
試料及び条件
GCカラムには、DB-5MSの30mを用い、EI標準イオン源を用いて、EI法、CI法(+/-)それぞれのイオン化法におけるHe及びN2両方のキャリアガスによる測定を行った。試料は、EI法及び負イオン化学イオン化法 (NICI法) では10pgのオクタフルオロナフタレン (OFN)、また化学イオン化法 (CI法) では100pgのベンゾフェノン (BZN)をそれぞれ用い、測定は、各イオン化法ごとに3回ずつ行った。測定条件をTable1に示す。
Table 1 GC-HRTOFMS measurement conditions
Instrument | JMS-T100GCV "AccuTOF™ GCv 4G" (JEOL Ltd.) |
---|---|
Injection mode | Splitless |
Injection volume | 1μL |
Column | DB-5MS (30m x 0.25mm, 0.25μm) |
Oven Temp. | (EI/NICI) 40°C (1min)-25°C/min-215°C |
(CI) 40°C (1min)-30°C/min-250°C (2min) | |
Carrier Flow | (N2) 0.55 mL/min, (He) 1.0 mL/min |
Ionization mode | (EI) 70eV, 300μA / (CI) 200eV, 300μA |
Ion source temp. | 250°C |
結果及び考察
Figure1に、He(上段)及びN2(下段)をキャリアガスに用いた時の、各イオン化法 (左から、EI法、CI法、NICI法) における測定化合物の抽出イオンクロマトグラムを示した。モニターイオンのm/z値は、OFN: m/z 271.9872, BZN: 183.08099とし、±0.25Daの幅を示した。そして、Table2には、得られた抽出イオンクロマトグラムから算出したSN比とピークのシグナル強度の平均値をそれぞれ示した。
Figure1 及び Table2 より、EI法では、キャリアガスをHeからN2にすることによって、SN比が約1/18に低下することが確認された。これは、Heの場合は、イオン源において選択的に大部分を除去できる機構となっているのに対して、N2では、除去が行えず、分析部へ導入されてしまうことが要因と考えられる。一方、CI法では、ポジティブモードで、約1/3と若干のSN比の低下となり、ネガティブモードでは、ほぼ同等のSN比であることが確認された。
以上のことから、N2をキャリアガスとして使用した場合、CI法による分析ではHe使用時とほぼ同等の測定が行えると言える。これに対して、EI法では高感度性能を必要とする微量分析にはある程度の制限を考慮しなければならないが、一般分析には十分実用的に使用できるレベルと判断された。
また、Table2におけるIntensityの値から、一連のSN比の低下は、一様に測定化合物のピーク強度の低下が起因していることが判る。従って、顕著にSN比の低下が観測されたEI法では、検出器自身の劣化に十分な注意が必要なものの、検出器電圧を上げることで、ある程度の検出感度の補完が可能である。

Figure1 EIC※ of Octafluoronaphthalene and Benzophenone by EI, CI, and NICI mode
※ Extracted Ion Chromatogram
Table2 SN ratio and peak intensity result
EI | CI | NICI | ||||
SN ratio | Intensity | SN ratio | Intensity | SN ratio | Intensity | |
He | 1780.4 | 43613.0 | 508.8 | 10378.0 | 225.8 | 7748.7 |
N2 | 102.2 | 3007.3 | 153.3 | 3044.7 | 202.7 | 6619.0 |
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