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材料のESR−炭素−

ER110001

ESRは、炭素の物性研究にも用いられている。例えば、純粋な単結晶のグラファイト1,2)の伝導電子による非対称なダイソン型線形3)のESRスペクトルが報告されている。

グラファイト

グラファイト(graphite)は、炭素から成る六角板状結晶である。平面構造は、亀の甲状のグラフェンであり強い共有結合で炭素間が繋がっている。一方、その層と層の間は、弱いファンデルワールス力で結合している(図1)。面内では金属と同様の電気伝導を示し、面間では半導体特性を示す。グラファイトは、電子機器、自動車、乾電池、塗料など様々な製品に用いられている。 カーボンナノチューブやフラーレンは、このグラフェンを変形させたものと見なせる。また、グラフェン間に添加物を注入することで、伝導率を向上させたり、超伝導性を発現させたりすることができる。

図1.グラファイトの基本構造
図1.グラファイトの基本構造

ESR線形

グラファイトと炭素繊維は導電性特有のESR線形を示し、それはダイソン型吸収曲線と呼ばれる。図2に鉛筆の芯のESRスペクトルを示す。マイクロ波が表面から表皮深さまでの僅かな領域において、マイクロ波の振幅の減衰、位相の変化を受けるため、このような上下非対称なESRスペクトルが観測されると考えられている。材料の粒子の大きさや膜厚が、表皮深さより小さい場合や、拡散時間が長く、伝導度が低いとこのような歪は起きない。図2のAとBの比A/Bから、伝導電子が表皮厚さを通過するのに要する時間が求められる4)。純粋グラファイトのg値、線幅(ΔH)については、グラファイトの電子構造を基礎にした理論解析が行われている5)
図2.鉛筆の芯のESRスペクトル(200度)
図2.鉛筆の芯のESRスペクトル(200度)

鉛筆の伝導電子

鉛筆の芯(4B)を試料管に充填し、−100℃~+200℃(温度可変装置ES-DVT4を使用)まで温度を変化させてESRスペクトルを観測した。グラファイトの温度を変えていくと、ESRスペクトルは、低温になるにつれて、線幅が増大し、かつg値が低磁場側に大きくシフトしているのがわかる(図3)。g値の大きなシフトや線幅の増大は、グラファイトに特徴的な現象で、フェルミ準位近くのバンド構造を強く反映している2)

図3.鉛筆の芯のESRスペクトルと温度変化
図3.鉛筆の芯のESRスペクトルと温度変化

炭素のESR

ESRはグラファイト等の炭素材料の物性評価での重要な方法であり、電子構造や立体構造についての情報を与える。フラーレンは、1985年に存在が実証され6)、フラーレンC60自身は、本来反磁性であるが、容易に酸化・還元を受けて不対電子を生じラジカルとなる。金属原子を内包したフラーレンは、その電子構造および物性に興味がもたれ、研究が行われている7,8,9)。カーボンファイバーや多層カーボンナノチューブのESRは、多結晶のグラファイトの場合に近く、伝導電子と格子欠陥などによるg値の相異なる1本線のESRの重なりとして観測される10)

参考文献

  • 1) G.Wagoner (1960): Spin Resonance of Charge Carriers in Graphite, Physical Review, 118, 647-653.
  • 2) 大矢博昭,山内淳(1989): 電子スピン共鳴−素材のミクロキャラクタリゼーション−, 講談社サイエンティフィク, p289.
  • 3) F. J. Dyson (1955): Electron Spin Resonance Absorption in Metals. II. Theory of Electron Diffusion and the Skin Effect, Physical Review, 98, 349–359.
  • 4) G.Feher and A.Kip (1955): Electron Spin Resonance Absorption in Metals. I. Experimental, Physical Review, 98, 337-348.
  • 5) J.W. McClure and Y.Yafet(1961): Proc. Of 5th Conferemce of Carbon, ed. S.Mrozowski,M.L. Studebaker, P.L.Jr.Walker, University Park, PA, Pergamon Press,p22(1963).
  • 6) H. W. Kroto, J. R. Heath, S. C. O'Brien, R. F. Curl & R. E. Smalley (1985): C60: Buckminsterfullerene, Nature, 318, 162-163.
  • 7) 篠原久典, 斉藤弥八(1996):フラーレンの化学と物理, 名古屋大学出版会, p302.
  • 8) C.C Chancey, M.C.M. O’Brien (1997): The Jahn-Teller Effect in C60 and Other Icosahedral Complexes, Princeton University Press.
  • 9)日本化学会偏 (1999):フラーレンの化学—炭素第三の同位体—,季刊 化学総説, 43, 学会出版センター.
  • 10) J.B.Jones and L.S.Singer (1982): Electron spin resonance and the structure of carbon fibers, Carbon, 20, Issue 5, p379-385.

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