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断層とESR -ESR年代測定を用いたアプローチ-

ER120006

1.はじめに

地震は、岩盤が周囲から押されたり引っ張られたりすることにより、ある面に亀裂が入り、そのとき岩盤が、断層面を境にして急速にずれて動く現象のことをいいます。このときの岩盤のずれを断層といいます。  
活断層とは、断層と認められる地形のうち、最近の地質年代において繰り返し活動し将来も活動する可能性のあるものをいいます。断層運動の変位のちがいによって正断層、逆断層、右横ずれ断層、左横ずれ断層に分類されます。また、軟らかい地層では、地層のたわみとして現れる場合があります。
活断層の場所のみならず、その活動性を評価することは、大きな建物の立地選定および耐震設計の基礎資料を作る上で重要です。その場合、断層の活動時期を明らかにすることが大切です。

2.活断層の調査

活断層の位置は、衛星や飛行機などの飛行体から撮影された空中写真を用いて、鳥のように空から地形を眺めることにより断層による変位地形から推定されます。そして、見つけた断層露頭を人工的に掘削することによって、地層を詳細に観察します。その際に、地層から試料を採取し、それらを用いて広域テフラ*1の同定を行ったり、特定の鉱物を抽出し、年代測定を行います。このような情報から、その断層の平均変位速度、地震の発生間隔、活動性の評価をします。
活断層の活動性の評価は、頻繁に地震を起こす断層、大きな地震を起こす断層、そして最後に起こった地震から現在までに経過した年数が、過去の地震発生間隔に近づいているかまたは上回っている断層は、特に急がれます。
活断層の活動周期は、数百年~数万年のものなど多様にあり、どれも注意深く観察する必要があります。 ESR年代測定法は、放射性炭素年代測定の限界を越える数万~数百万年前が適応範囲となります。

3.ESR年代測定を用いたアプローチ

地表に含まれる石英粒子は、地上に降り注ぐ自然放射線や宇宙線により、石英結晶内の電子が電離されたり、結晶格子の原子がはじき出されたりします。こうした損傷を空格子といいます。この石英粒子の年代が古いほど、この損傷の影響は大きくなります。その大きさは、ESR信号強度の大きさを用いて評価することができます。 ESR年代測定を用いた活断層の評価を行うとき、次のポイントが重要です。

  • (1)ゼロイング
    ゼロイングとは、断層の形成および活断層の活動に伴い、断層面にある石英粒子が、剪断応力*2や摩擦熱によって加熱されることにより、それまで蓄積されてきた損傷がリセットされることをいいます。ESR信号は、その加熱により、その場所のESR信号強度だけがほぼゼロになります(ESR信号のリセット)。断層の活動が収まると、徐々に断層面の石英粒子が冷え、再び自然放射線や宇宙線の影響を受け損傷が蓄積されていきます。
    つまり、断層のESR年代値(ESRによって求められた年代)は、断層の活動時期を示しています。
    現状では、通常の断層運動では、ESR信号強度がリセットされる部分は、断層面のごく表面であると考えられています。
  • (2) 熱履歴
    天然の石英粒子からは複数のESR信号が観測されます。それぞれ加熱・破砕作用に対して異なった消滅過程をたどるため、それらの熱安定性と寿命から、断層面における摩擦熱や摩擦係数など、構造地質学的な面からも興味を持たれています1)。断層の変位量、摩擦応力、摩擦係数を仮定してシミュレーションを行い、断層摩擦熱によるESR信号のリセット条件を検討している報告もあります2)。
    つまり、試料が受けた熱量が分かれば、ESR信号強度のリセットの度合いや摩擦熱を見積もることができます。
    図.2断層のESR年代のしくみ
    図.2断層のESR年代のしくみ

4.断層のESR年代測定の対象試料

断層の活動時期を知るためのESR年代測定の対象試料は、断層破砕帯*3、断層粘土*4、マイロナイト*5、シュードタキライト*6、断層ガウジ*7など断層運動によって生成した石英です。その断層活動時にESR信号がリセットされた部分、すなわちできるだけその時に活動した断層面に近い部分を採取することが重要です。


図3.試料採取をしている一例

図4.試料の化学処理前後の一例
 

5.石英から観測されるESR信号

石英中には複数のESR信号が観測されており3)、E1’、Peroxy、NBOHC、 Al、Ti-Li 、Ge、FMR中心信号が、断層のESR年代測定法や摩擦熱の算出に用いられています。Al、Ti-Li中心信号は火山噴出物の年代測定にも用いられています(図5参照)。これらのESR信号を用いたESR年代測定の説明は、アプリケーションノートER-080002をご参照ください。

図5.Al、Ti-Li中心信号(試料;比叡山花崗岩)
A: Al 中心信号強度 B: Ti-Li中心信号強度

6.【研究例】~シュードタキライトのESR年代測定~

シュードタキライトは、地震の化石ともいわれ、摩擦熱による融解で生成されるものが多く報告されています。その中でも地殻表層部で地滑りに伴って生じたシュードタキライトも世界で数ヶ所存在します。
ネパールのヒマラヤのランタン地域の地滑りに伴って生じた片麻岩起源のシュードタキライトのESR年代測定を1例としてご紹介します。このシュードタキライトは、巨大な地滑りにより生じたということが地形学的に明らかにされています4)。そして、融解後にすぐ冷却されているため、ガラスや隙間が多量に生じており、シリカガラスの存在から、このシュードタキライトは、1520℃に達したと報告されています5)。つまり、このシュードタキライトは岩石が融解するほどの加熱を受けており、地滑り以前の石英中のESR信号はリセットされたと考えられます。この試料を用いてESR年代測定により得られる年代は、シュードタキライトの生成の年代を示し、それは同時に地滑りが生じた年代を示します(図7参照)。
このシュードタキライトの断層脈から抽出した石英を用いてESR年代測定が行われ、約6.2万年という結果が報告されています6)。


図6. γ線応答曲線

図7.シュードタキライトのESR年代のしくみ

まとめ

ESR年代測定法からわかる断層活動の情報は、以下の点にまとめられます。

  • 断層の活動年代
    断層面にてゼロイングが起こっていること確認される部位では、断層のESR年代測定が可能となります。
  • 熱履歴
    断層帯で地震による断層運動に伴い、どの程度加熱されたかを決めることは、地震の発生に至る段階で重要です。
    例えば、図8(a)の地層にて、A~Iで試料採取を行い、ESR信号を測定すると、図8(b)のような結果になることが予想されます。これは、断層面に近いほど、摩擦によって試料が加熱されることで、ESR信号強度が減少するためです。この様な情報から断層帯内部でどの程度加熱されたかをESR手法にて推定できる可能性があります。
    活断層の活動性を評価することができるESR年代測定法は、ユニークかつ重要なツールです。ESR年代法を用いて、活動年代・活動周期・摩擦熱の観測網を日本全国、全世界に拡大していけば、既知・未知の活断層マップにおける、活動時期やその周期を可視化することが可能となると期待されます。

    図8.断層面からの距離によるESR信号強度の違い
    (a)地層の例
    (b)地震が起こったときのESR信号強度

用語の説明

  • *1.大規模な火山の噴火が起こったときに、日本の広範囲を覆う火山灰や軽石が降下し堆積する物質のことです。
  • *2.物体内部のある面の平行方向に、滑らせるように作用する応力のことです。
  • *3.断層面周辺の岩盤が破砕され、岩石の破片の間に隙間の多い状態のことです。
  • *4.断層破砕帯の破砕が進むと、岩石の破片が粉砕され粘土のような細粒物質生じた状態のことです。
  • *5.断層の深部では温度が高いため、破砕されずに塑性変形を起こして特徴的な変形構造を持つ岩石となります。
  • *6.地下深部において岩盤が強い圧力を受けて破壊され断層に沿って高速に滑るとき、摩擦熱によって破断面の粉状岩石 が溶けて生じた液体が急冷・固結したものです。
  • *7.断層運動が激しく起こると、断層面の部分にある岩石が摩擦などによって破壊され粉々になって粘土状になった状態 のことです。

参考文献

  • 1) H. Matsumoto, C. Yamanaka, and M. Ikeya (2001):ESR analysis of the Nojima fault gouge, Japan, from  the DPRI 500 m borehole. Island Arc, 10, 479.
  • 2) T. Fukuchi(1992):ESR studies of absolute dating of fault movements. Journal of Geological Society, London, Vol.149,p256-272.
    3) Weil, J. A.(1984): A review of electron spin spectroscopy and its applications to the study of paramagnetic defects in crystalline quartz. Physics and Chemistry of Minerals.10.149-165.
  • 4) L. Masch, E. Preuss (1977):Das Vorcommen des Hyalomylonits von Lantang Himalaya(Nepale). Neues Jahrnuch fur Mineral., Abh, 129,292-311.
  • 5) L. Masch, H. R. Wenk, and E. Preuss (1985):Electron microscopy study of hyalomylonite-evidence for frictional melting in Landslides,Tectonophysics,115,131-160.
  • 6) 島田愛子,豊田新,高木秀雄,在田一則(2003):シュードタキライトによるESR年代測定, 地球惑星科学関連学会2003年 合同大会要旨, Q042-P004.

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