ENDOR装置のご紹介 -その1-
ER150005
二重共鳴法(ENDOR:Electron Nuclear Double Resonance)は、ESRとNMRの2種の磁気共鳴を組み合わせた手法です。通常のESR信号では、複数の核種と相互作用が、複雑に干渉した形で現れます。ENDOR測定を行うことにより、核種ごとの相互作用が独立して単純な信号となり、より高分解能で計測できます。
ENDORの観測は、次の3つのステップを踏みます。
- ESRスペクトルの一部を強いマイクロ波で照射してESR遷移を飽和させます。
- ラジオ波周波数を掃引し、電子スピンと相互作用する核スピンのNMR遷移を生じさせます。
- NMR遷移が生じると、ESR遷移の飽和が解けてふたたびESR遷移が観測されます。
ENDORキャビティ
TM110円筒形共振器 (ENDORキャビティ) の磁場分布とENDOR測定の際のケーブル結線図を図1に示します。ENDORキャビティは、ラジオ波 (RF) 磁界が試料に効率よくかかるように、RFコイルはヘリックス型を用いています。そのため、ヘリックスコイルを空洞中に挿入しても比較的Qの低下の少ないTM110モードを用いています。TMモードでは、円筒軸と静磁界に垂直な方向にマイクロ波磁界が発生します。
主な仕様
- 共振周波数:約9,400MHz
- 共振モード:円筒TM110
- 無負荷のQ値:約7,000以上
- ENDOR用RFコイル内蔵
- 温度:−100~100°C

図1. TM110円筒形共振器の磁場分布とケーブル結線図
試料はガルビノキシルフリーラジカルをn-へプタンに溶解したのち、十分に脱気したものを用いました。適切な温度、信号が飽和するマイクロ波パワーにて、ESR測定を行い (図2)、観測されたESR信号の中心にRFを照射すると図3のENDOR信号が得られます。ENDOR信号は、核スピンの共鳴周波数 (νn) を中心に現れるため核スピン種の同定が可能となります。また、νn を中心とする分裂は核スピンとの超微細相互作用と解釈できます。図3では、メチレン水素とオルト位水素、そして、CW-ESR信号では線幅の中に隠れていたt-ブチル水素の分裂が観測されています。
図2. ガルビノキシルフリーラジカルのESR信号 (脱気済)

図3. ガルビノキシルフリーラジカルのENDOR信号