材料のESR –光重合反応 ③–
ER170002

日常的に使われているプラスチックの多くはラジカル重合反応によってつくられています。このラジカル重合反応を直接観察することができれば多くの重要な情報を得ることができます。ESR では重合末端の不対電子のみを観測しますが、うまく利用することで、分子中のごく一部を見ているにもかかわらず分子の大きさ(鎖長)、運動性をはじめ色々な情報を得ることができます。
ラジカル重合反応
ラジカル重合は、ラジカルが次々とモノマーに付加して高分子を合成する反応です。主にビニルモノマーの重合に用いられており、開始、生長および停止反応からなる連鎖反応です。
(1) 開始反応
重合開始剤(I)の分解や、それにより生成した一次ラジカル(R・)とモノマー(M)の反応から開始ラジカル(R-M・)を生成します。
(2) 生長反応
開始ラジカル(R-M・)とモノマー(M)の反応で生成したポリマーラジカル(P・)が、さらにモノマー(M)への付加反応を繰り返して重合反応が進み、この過程でポリマーの主鎖が形成されます。
(3) 停止反応
生長ラジカル (P-M・)が重合系の化学種と反応してその活性を失う過程です。生長ラジカル同士の再結合反応(P-P)や生長ラジカル間での水素移動による不均化反応 (P(+H)+P(-H)) があります。

図1.ラジカル重合反応
開始・生長・停止反応は光照射と同時に始まり、重合反応の環境によりポリマーの長さ(重合度)は変わります。光を受けた重合開始剤は開裂して直ちに次の反応に使われるため、試料によっては一次ラジカル(R・)の寿命が短く、通常の ESR 測定では捉えられない場合もあります。それに続く生長反応では重合プロセスの進行とともに生長ラジカルの生成が進み ESR 信号が観測されます。生長ラジカルがある程度生成するとそれらの再結合や不均化(停止反応)が進行します。重合反応でラジカルが生成する速度と停止反応でラジカルが消滅する速度がつりあったところでESR信号強度は一定(定常状態)となります。
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