ベースラインの補正 - 定量の際の注意 -
ER180005
ESRは、常磁性物質(ラジカル、金属イオン、欠陥等)のみを計測することができる装置です。そのため多くの場合、クリーンナップ等の前処理が不要という特長があり、簡単にお使いいただくことができます。しかし、観測対象としていない成分が共存している場合には、それが電子スピンを持つと夾雑物信号を与えることになります。ここでは、そうした夾雑信号がベースラインに影響しているケースの対処法として、ベースライン補正の例をご紹介します。
試料とESR測定条件
- 試料:
天然ゼオライト - ESR測定条件:
マイクロ波周波数; 9437MHz, 中心磁場; 335.4mT,
変調磁場; 100kHz, 0.2mT, マイクロ波出力; 1mW,
掃引時間; 2min, 時定数; 0.1s, 掃引幅: ±5mT,
測定温度; RT, Mnマーカー; 580
解析法
図1に、本ゼオライトのESRスペクトルを示しました。中央付近に目的とする信号が観測されました。両側の逆位相の信号は、Mnマーカー由来の信号です。本来であれば、スペクトルの両端はベースラインレベルまで戻るはずですが、ここでは左右の高さが異なっています。このような場合、本試料にはかなり線幅の広い常磁性物質が共存していることが疑われます。それにより定量値が影響を受ける可能性があります。しかし評価の目的が、図に観測されている信号の場合は、以下のようにベースラインを補正することで定量値の信頼性を向上させることができます。
データ解析プログラムで「MANIPULATION 」タブを開くと、図2に表示したベースライン補正メニューが表示されます。ここでは図1のスペクトルに、三次の回帰曲線をフィッティングするので、Fit orderとして3を選択します。
「Show background」ボタンをクリックすると、上で選択した式で描いたベースラインをスペクトルに重ねて表示します(図3: 赤点線が候補ベースライン)。これを妥当と判断し、「Baseline correction」ボタンをクリックすると、図4に示したフラットなベースラインのスペクトルが得られました。図3の段階で候補としたベースラインのフィッティングが良くないと判断された場合は、「UNDO」をクリックして設定を解除した後に、図2の次数を変更してください。
ベースライン補正が適用されたスペクトルを用いて、目的とする信号のスピン数を定量しました。図5に示すように2回積分で得られた積分面積を、標準物質の2回積分値と比較してスピン数を求めたところ、1.4×1014 spins と算出されました。参考として、ベースライン補正前のスペクトルでほぼ同領域を積分して求めたスピン量は、2.4×1014 spins であり大きな差異が認められました。以上のように、ベースライン補正を行うことで定量誤差を減らすことができます。





まとめ
ESRスペクトルから正しい定量値を求めるためには、適切なベースラインを設定することが大切です。本ベースライン補正のソフトウェアは、弊社装置JES-FAシリーズ、JES-X3シリーズに標準で搭載されていますのでご活用ください。
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