ESR信号の線幅と温度依存性−酸化クロム(Ⅲ)を例として
ER200003
酸化クロム(Ⅲ)のESR信号

図1. 試料のESR信号
酸化クロム(Ⅲ)は、セメント、ゴム、屋根材、陶磁器などに使用されてきましたが、近年はその特性を活かしてメモリの開発にも利用されています。
酸化クロム(Ⅲ)は、室温付近ではESR信号を示しませんが、200°Cではg=1.98付近に明瞭なESR信号を与えます(図1)。酸化クロム(Ⅲ)は常温では反強磁性体ですが、相転移温度TN(ネール温度)より高温では物性が常磁性へと相転移することが知られています。
ESR信号の温度依存性
温度可変装置(ES-13060DVT5) を用いて33~200°CにてESR測定を行いました。図2(A)にESR信号の積分値を縦軸に、温度を横軸に示します。図より、相転移温度TN(34°C付近)から昇温と共に積分値が増加し、40°C以上で頭打ちとなる傾向が観測されました。この試料は温度が上がることにより反強磁性から常磁性に変わり、40°C付近で常磁性磁化率が最大になることを反映しています。図2(B)にESR信号の線幅(図1のA)を縦軸に、温度を横軸に示します。図より線幅が相転移温度TN付近から昇温と共に線形が急激に先鋭化する様子が観測されました。34~35°CでのESR測定は、0.1°Cずつ行っており、それらの温度に対して、線幅は連続的に変化している様子が確認できます。40°C以上になると線幅は46±1mTとなり温度による線幅の大きな変化は観測されないことがわかります。このような特徴ある現象は相転移温度TN付近にて見られることが報告されています[1] 。

図2. 酸化クロムの ESR 信号の積分値と線幅の温度依存性
参考文献
[1] V.G.ANUFRIEV (1977) : EPR of Cr2O3 in the phase transition region, Physics Letters A, Vol.64, 1, 139-140.
- このページの印刷用PDFはこちら。
クリックすると別ウィンドウが開きます。
PDF 445.9KB