磁性ナノ粒子と超常磁性共鳴 (3) *** 磁性ナノ粒子の平行励起スペクトル ***
ER210007
磁性ナノ粒子のハーモニック共鳴スペクトル
Magnetite (Fe3O4) やMaghemite (γ-Fe2O3) の磁性ナノ粒子は、 "超常磁性"を示す。特に、粒径が10 nm以下になると、非常に特徴的な超常磁性共鳴スペクトルが観測される[1][2]。図1 (a) に示すスペクトルは、粒径5 nmのMagnetiteナノ粒子の超常磁性共鳴スペクトルである。このスペクトルの特徴は、g = 2に現れるシャープな成分の共鳴磁場をB0としたとき、B0 = B0/k (k = 2,3,4…) の位置に共鳴線が観測されるところにある。これは、g値に換算すると、g = 4,6,8…に相当する。Noginovaらは、これらの多重線を1粒子内の角運動量の合成および、ナノ粒子間の双極子相互作用モデルによって説明している。合成スピン角運動量Sが1以上になるとき、常磁性共鳴では、Δms = ±1の許容遷移のみならず、一般には禁制とされるΔms = ±2の遷移も同時に観測されることがある。このΔms = ±2の遷移は、"多量子遷移"と呼ばれるが、Noginovaらは磁性ナノ粒子で観測される多重線もこれと同様の多量子遷移であるとみなした[2]。
良く知られているように、多量子遷移 (禁制遷移) を選択的に検出する方法の一つは、高周波磁場が静磁場と平行に照射される平行励起スペクトルの測定である。デュアルモードキャビティー (ES-14040DMC) を用いると、垂直励起モードと平行励起モードを切り替えてスペクトルを測定することができる。モード検証の例として、図1 (b) と (d) に常磁性試料 (ウルトラマリンブルー) の垂直・平行励起スペクトルの例を示す。垂直励起モード (図1 (b)) で測定されるLorentz型のスペクトルは、許容遷移であるので、平行励起モード (図1 (d)) で測定するとほとんど観測されなくなる。それでもわずかなB1方向のアライメントのズレにより1/1200程度の漏れが見えている。図1 (c) のスペクトルは、粒径5 nmのMagnetiteナノ粒子の平行励起スペクトルである。わずかに観測されるg=2の信号は、垂直モードに比べて1/1500に強度減少しているため、この信号は垂直モードの漏れと解釈できる。しかし、g = 4,6,8,10の位置の信号は、垂直モードと比べてg = 2の信号との比率が全く異なることから、明らかに平行モードの励起によって生じた多量子遷移の信号であると解釈される。このように、平行励起スペクトルの測定は、未知のサイズ効果に起因する電子状態の解明に大いに役立つものと期待できる。
図1 磁性ナノ粒子 (Fe3O4) トルエン分散溶液 (粒径5 nm, 1.25 mg / mL) および常磁性粉末試料 (ウルトラマリンブルー) の垂直・平行励起モードスペクトル。
(a) 垂直励起モード (Fe3O4)、(b) 垂直励起モード (ウルトラマリンブルー)、(c) 平行励起モード (Fe3O4)、(d) 平行励起モード (ウルトラマリンブルー)。
*測定に用いたキャビティは、写真のES-14040DMC。
Reference:
- [1] M. M. Noginov et al., Journal of Magnetism and Magnetic Materials, 320, 2228-2232 (2008).
- [2] N . Noginova et al., Phys. Rev. B 77, 014403 (2008).
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