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イメージング質量分析法と走査電子顕微鏡を用いたポリエチレンテレフタレートフィルムの紫外線照射による劣化解析 [MALDI-TOFMS × SEM Application]

HS05

一般的な表面分析装置を用いた工業材料評価では、試料表面の元素・結合状態・官能基などの情報は得られるが、有機物そのものを分析できる手法はない。有機質量分析法は有機分子やその断片化情報が得られるが、試料全体を分析する場合がほとんどである。なかでもマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析計(MALDI‐TOFMS)は、従来よりポリマー分析において強力なツールとして知られる。高質量分解能MALDI-TOFMSを使用すれば、繰り返し単位や末端基の組成の違うポリマーシリーズの識別が容易に可能となり、それぞれの分子量分布を算出することができる。
ケンドリックマスディフェクト(KMD)法を用いることで、高質量分解能マススペクトルに含まれる複雑なポリマーシリーズを容易に可視化することができる。また、MALDI‐TOFMSを用いたイメージング質量分析(MSI)の近年の技術向上により、試料表面のポリマーの局在情報の可視化も可能である。
これは従来の表面分析手法では難しかった試料表面のポリマーの分子情報を得られる可能性を示唆している。既報[1]では、ポリエチレンテレフタレートを用いて紫外線照射による劣化解析について基礎検討を行った。
今回はポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムへの応用を検討した。またMALDI‐TOFMSでは、分子量や末端基の変化として劣化を捉えることが可能であるが、形態の変化を捉えることはできないため、紫外線照射前後のPETフィルム表面を走査電子顕微鏡で観察したのであわせて報告する。

実験

サンプルには、30μm厚のPETフィルムを用いた。まずPETフィルムの右半分をアルミホイルで覆い、ハンディキュア100(ミズカプランニング社製)を用いて30分間紫外線照射を行った。すなわち、左半分が紫外線照射による劣化した領域となる。マトリックスには、2,4,6‐トリヒドロキシアセトフェノン(THAP)を、カチオン化剤にはトリフルオロ酢酸ナトリウム(NaTFA)を用いて、各々10 mg/mLと1mg/mLの濃度でテトラヒドロフラン(THF)に溶解した。
PETフィルムの上からTHAP溶液とNaTFA溶液を10:1で混合した溶液をエアブラシでスプレーした。MALDI‐MSI測定は、JMS‐S3000のSpiralTOF正イオンモードで測定を行った。ピクセルサイズは50μmとした。MSI解析にはmsMicroImager™を、KMD解析にはmsRepeatFinderを用いた。走査電子顕微鏡の測定条件は文中およびFig. 2中に記載した。

Fig.1 Schematic of the irradiation region of PET film using ultraviolet ray.
Fig. 1 Schematic of the irradiation region of PET film using ultraviolet ray.

結果

Fig. 2に紫外線照射前後のPETフィルム表面を無コーティングでSEM観察をした二次電子像を示す。試料から放出された二次電子は凹凸に敏感であり、試料表面の劣化解析に適している。Fig. 2 A, Bは紫外線照射前の倍率50,000倍と100,000倍と二次電子像であり滑らかな表面が観測された。
一方で、Fig. 2 C, Dは紫外線照射後の二次電子像であり100nm程度の凹凸が観測されている。このような試料表面のナノ構造を観察するにはSEMが有効である。

【SEM観察条件】
入射電圧:0.8 kV、信号:二次電子像、前処理:無蒸着

Fig. 2 Secondary electron image of PET film surface before and after ultraviolet ray irradiation.
Fig. 2 Secondary electron image of PET film surface before and after ultraviolet ray irradiation.

Fig. 3に測定領域全体の積算マススペクトルを示す。積算マススペクトルには、PETのモノマーに相当する192u 間隔(C10H8O4)のシリーズが主に8つ観測された。積算スペクトルのピークリストをエクスポートし描画したKMDプロット(Base unit C10H8O4, X=193)を示す。シリーズI~IVは、既報1と共通の成分である。それぞれ、(I)環状オリゴマー、(II)末端基COOH/COOH、(III)環状オリゴマー+C2H4O、(IV)末端基COOH/OHであり、[M+Na]+と推測される。シリーズ(I)および(III)は、紫外線照射前から存在する成分であり、シリーズ(II)および(IV)は紫外線照射により生成したシリーズである。
次にシリーズI, IIのイメージを作成した(Fig. 4)。各シリーズのイメージは、KMDプロットでグループ化してピークリストを抽出し、そこに含まれる各m/zのマスイメージを合算した。シリーズIは、左半分のイオン強度が相対的に低く紫外線照射により減少していることが分かる(Fig. 4A)。逆にシリーズIIは、左半分のイオン強度が相対的に高いため紫外線照射によりイオン強度が増加していくことが分かる(Fig. 4B)。
本報告では、紫外線照射による劣化部位を検出することが目的であるため、シリーズIをリファレンスとして、シリーズIIのイメージを規格化した(Fig. 5C)。 つまりピクセルごとにシリーズIのイオン強度に対するシリーズIIのイオン強度をイメージ化したものになる。その結果、それぞれのシリーズのイメージよりもはっきりと劣化前後の差をみることができた。Fig. 5には、シリーズII~VIIIについてFig.4と同様にシリーズIのイオン強度で規格化したイメージを示す。ただし、Fig. 5では2×2のピクセルビニングを行った。Fig. 5をみると、左右の領域で色調が同等のシリーズIII, V, VIIIは紫外線照射前から存在すると考えられ、左の領域の色調が明るいシリーズII, IV, VI, VIIは、紫外線照射後に増加したシリーズと考えることができる。

Fig. 3 Accumulated mass spectrum of measurement region (A) and KMD plot (base unit C<sub>10</sub>H<sub>8</sub>O<sub>4</sub>, X=193) (B). By using the KMD plot eight PET series were easily founded(I) – (VIII).
Fig. 3 Accumulated mass spectrum of measurement region (A) and KMD plot (base unit C10H8O4, X=193) (B). By using the KMD plot eight PET series were easily founded(I) – (VIII).
Fig. 4 Images of the cyclic oligomer of PET series (Series I) (A), the ultraviolet degraded PET polymer series (series II) (B) and normalized image of series II by the image of seriseI (C).
Fig. 4 Images of the cyclic oligomer of PET series (Series I) (A),
the ultraviolet degraded PET polymer series (series II) (B) and
normalized image of series II by the image of seriseI (C).
Fig. 5 Images of PET series II –VIII normalized with image of PET series I.
Fig. 5 Images of PET series II –VIII normalized with image of PET series I.

まとめ

本報告では、PETの紫外線照射による劣化を形態観察が可能なSEMと化学的な変化を捉えられるMSIを用いて検討した。その結果、両者において劣化部位を確認することができた。

参考文献

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