低真空SEMによる食品の観察と分析
MP180325-01
低真空SEMによる食品観察と分析
食品の分析は、日常的な品質管理や、異物混入時の原因解明を目的として行われます。光学顕微鏡で形態観察を行った後、有機物分析をFT-IRや質量分析で、無機物分析を蛍光X線等で行うことが一般的です。走査電子顕微鏡(SEM)は、より精細な形態観察と、ピンポイントで異物の元素分析を行うことが、同時にできる装置です。特に、試料を無処理で観察・分析できる低真空SEMは、対応にスピードが求められる異物分析において威力を発揮します。
水分を多く含む食品をSEMで観察・分析するには、SEMの試料室が真空であるため試料中の水分が昇華して変形してしまう、電子線を使うため導電性の無い試料は帯電してしまう等の問題があります。そのため、試料に化学固定や導電処理をおこなう必要があり、手間と時間がかかります。しかし、試料室の圧力が高い低真空SEMを使うと、水分の昇華による変形や帯電を軽減し、そのままの試料で様々な解析をおこなうことができます。
SEMによる食品観察の問題点
- 真空なので水分が減少する
→ 試料に固定・乾燥などの処理を施す - 電子線を使うので、試料に導電性が必要
→ 試料に導電処理をおこなう
低真空SEMを使うことで、そのまま観察、分析が可能になる
低真空SEMの原理
低真空SEM法は、差動排気により電子銃や鏡筒を高真空に保ちながら試料室の圧力を上昇させ、試料の観察・分析をおこなう手法です。試料室が低真空(残留ガスが多く存在する状態)に保たれているため(図1)、通常のSEMと比較して、少量の水や油を含む試料から水分等の蒸発を抑えることができます。
また、入射電子により残留ガスがイオン化されることで試料の帯電が中和され、導電性処理が不要になります(図2)。
低真空SEM観察例
図3 試料:チョコレートクッキー断面
チョコレートクッキーの断面です。デンプンの粒の様子と、その周囲に黒くにじんだように油分の分布が観察できました。
加圧電圧:15 kV 撮影倍率:×500 反射電子立体像
図4 乾燥したチモシー
乾燥したチモシーの裏面です。チモシーはイネ科の多年草で、うさぎの餌として使われます。気孔の様子や、イネ科の植物の特長であるミネラルの分布が容易に観察できました。
加圧電圧:15 kV 撮影倍率:×700 反射電子立体像
図5 玄米断面
玄米の断面の画像です。画面上側が表皮、右下の丸い粒子がデンプン粒です。表皮の直下にミネラルが分布している様子が観られました。
加速電圧:15 kV 撮影倍率: × 500 反射電子立体像
低真空SEM法による元素分析
図6は、玄米の胚芽の断面を、低真空SEMで観察、分析した結果です。胚芽部分を拡大し、反射電子像で観察すると、白い粒子が観察されました。さらにEDSを使用して元素マッピングを行った結果、白い粒子に、Mg、K、P等のミネラルが分布していることが分かりました。
玄米の胚芽光学像
図6 胚芽の断面 反射電子立体像と元素マップ
試料:玄米(胚芽断面)
加速電圧: 15 kV
撮影倍率: x700
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