リチウム電池用電解液の自己拡散係数と関連するデータ集リチウム電池用有機電解液 (Ion and Solvent Self-Diffusion Coefficients for Lithium Battery Electrolytes. Organic Solution Electrolytes.)
NM131015
はじめに
10年以上にわたって電解質の NMR データを測定して論文発表してきたが、その数値データは私のパソコンの中に蓄積されている。ここでは、それらのデータを集めて公表することとした。測定データは常に誤差をふくみ、その誤差は装置の進歩や測定者の経験と熟練を積むことにより小さくすることはできても測定誤差ゼロというデータがあると私は考えていない。サンプルの方も溶媒や塩の純度、調製方法、変質など実験誤差を誘発する原因が存在する。ここに示すデータは細心の注意でサンプル調製を行い、注意深く測定したものであるが、初期の頃のデータは測定精度が不十分と思われるものも含まれている。それを知った上で、数値データの公表を行うことにした。誤差範囲を考慮すれば十分に意味をもっていると考えている。
リチウム電池に関する NEDO プロジェクト「分散型電池電力貯蔵技術開発、高能率未来型電池の研究、高分子系リチウム電池用材料の評価技術の研究」に 1995年に参加して、NMR によるリチウム電池用電解質の研究を開始した。NMR 装置に磁場勾配印加用プローブを導入し、パルス磁場勾配法NMR の測定法の研究をスタートした。リチウム、アニオン、溶媒の拡散係数が測定できるようになったのは 1997年ごろである。電解質の自己拡散データを解析した最初の論文は高分子ゲル電解質の研究であり、電解液、高分子電解質、リン酸水 溶液、イオン液体などを対象に十数年間にわたって約 30 報以上の研究論文を発表してきた。
その経験をインターネットで公開してある。
http://diffusion-nmr.jp/ からアクセスできる。
「PGSE-NMR 法による拡散現象測定の手引書(第三版)」
「PGSE-NMR法によって測定する自己拡散係数のデ−タ精度(追加版)
その英語版は “On Accurate Measurements of Diffusion Coefficients by PGSE NMR Methods(Version 2) -Room-Temperature Ionic Liquids-“
また 「PGSE-NMR 法による拡散測定の有機電解質への応用(第二版)」は本ホームページからアクセスできる。
リチウム二次電池研究開発では電解質は重要な開発要素であり、最近のプロジェクトでは多種多様な電解質が提案され実用化を目指した研究開発が行われている。しかしながら有機電解液の重要性が減じた訳ではない。ここでは我々が取得したデータのうちでリチウム電池開発の基礎データとして重要と考える拡散係数に絞って、リチウム電解液のデータを本ホームページのために再編集した。論文発表してあるデータにはその旨記載した。私のパソコンの中で眠り続けている数値データを公表しておけば、どなたかが役立てて下さると期待している。
上述のように拡散係数は多くの要因で変動する。NMR 測定の立場からいえば、測定温度、パルス磁場勾配、pulse field gradient(PFG)の calibration、対流効果の加算、測定条件の設定不良、サンプルの要因としては塩濃度の変動(サンプル調製だけでなく、溶媒の蒸発、水の混入など)が考えられる。また、初期の測定のデータの中には経験を積んだ今現在に眺 めると精度が不十分と思うデータもあるが、電解液の寿命等を考えると再測定できない。 実験誤差はあるが有用性は変わらないと考え、ここに記載することとした。同じ電解液と 記述してあっても、異なった時期に電解液を入手して測定したデータが含まれているので、数値の相違は実験誤差としていただきたい。一連の測定(温度変化や塩濃度変化)ではスムーズの値が得られるようにみえるが、系統的に外れることもあるので注意が肝要である。また相互のデータ間の比やイオン伝導度との比較ではバラツキが大きくなっている場合もある。現在PDFファイルから数値データは Alt キーを利用して Copy/Paste できるので、本誌のデータは、例えば 4×10-10 の代わりに4E-10と記している。
第1部は重要な有機電解液だけに限定した。第2部としてグライムなど高分子電解質の基礎になるデータを編集したいと考えている。測定初期のころの拡散係数測定用の NMRはJEOL-GSH-200にTecmag-Galaxy システムを付属してマルチとH/F のPFG プローブ 2 本を用いて測定した。この時代の測定では S/N を上げるのに苦労した。最近の拡散測定は 1H 周波数270MHzでTecmag-Apollo-NTNMR システムにJEOL製の19F 測定も可能なマルチのPFG プローブ1本で行っている。Apolloのお陰でS/Nは非常に改良している。
謝辞
基本的な電解液サンプルの多くとイオン伝導度などのデータは共同研究者である相原雄一博士から提供されたものである。NMR屋の私が電解液関連のデータを数多く測定できたのは、提供されたサンプルが確かなもので且つ示唆に富んだものであったためである。ここに記して心から感謝する。
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