特殊なNMR試料管のご紹介
NM200002
溶液NMRでは、5mm径のガラス製試料管を用いることが多いですが、サンプルや目的によって特殊な試料管を用いることもあります。ここでは、いくつかの特殊な試料管の例をご紹介します。なお、オートサンプルチェンジャーで特殊試料管を使用する場合は、サイズに制限があるので必ず事前の十分な確認をお願いします。
対称形ミクロサンプルチューブ
サンプルの液量を減らしたい場合、「対称形ミクロサンプルチューブ」 (シゲミ社製) を用います。下図のように、内管の先端部と外管の底部は、溶媒と同じ磁化率のガラスでできています。このタイプの試料管は分解能を落とさずにサンプルの液量を減らすことができます。一般的に検出コイル中心から離れるほどラジオ波強度の均一性は悪くなりますが、この試料管ではサンプル範囲を狭める事でラジオ波強度の不均一性を低減できます。ただし、ガラス部分からは1Hや2Hの信号を得ることができないので、グラジエントシム条件のRangeをデフォルト値のままシム調整すると、ガラス部分も含まれるため分解能がうまく上がらないことがあります。そこで、Range設定を通常より狭くする必要があります。Range設定の方法は、アプリケーションノートNM190014 「ミクロ試料管を使用する場合のグラジエントシム条件」をご覧ください。なお、この試料管を用いる際は、サンプルは回転させません。

マイクロボトムチューブ
3mm径試料管に入ったサンプルを5mmプローブで測定する場合、3mm管用のサンプルホルダ (左図) を用いることができます。また、5mm径マイクロボトムチューブ (右図) のような試料管も発売されています。この試料管は、サンプルを入れる下部が3mm径で上部が5mm径なので、通常の5mm管用サンプルホルダが使えます。なお、マイクロボトムチューブには、下部が3mmよりも細い種類もあります。マイクロボトムチューブのグラジエントシムは、通常の5mm試料管の条件がそのまま使用できます。

高気密試料管
二次電池電極材などの嫌気性材料の場合は、グローブボックス内でサンプル調製します。その際に用いるのがバルブ付きの高気密試料管です。NORELL社、Wilmad-LabGlass社など、複数の試料管メーカーから発売されています。ねじ状の蓋にはバルブが付いており、蓋を閉めると試料管が密閉されます。

フッ素樹脂製試料管
ケイ素やホウ素の測定で、ガラス由来のバックグラウンド信号を低減したい場合、これらの元素を含まないPTFE (ポリテトラフルオロエチレン) などのフッ素樹脂製の試料管を用います。NORELL社製、Wilmad-LabGlass社製などがあります。 この試料管を使うには、サンプルホルダに取り付けるための部品が必要です。 試料管を両端開放のガラス管に通し、それをサンプルホルダに挿入します。Oリングを試料管にはめてガラス管を上下で固定します。 この試料管では、サンプルの回転を止めて測定します。

石英製試料管
通常のNMR試料管はホウケイ酸ガラスで作られています。 ホウケイ酸ガラスはB2O3とSiO2が主成分です。 そのため、ホウ素の測定ではガラス由来のバックグラウンド信号が出ます。一方、石英ガラスはSiO2が主成分のため、石英製の試料管を用いると、ホウ素のバックグラウンド信号を低減することができます。 合成石英製の方が、天然石英製より不純物が少ないです。石英製試料管は、シゲミ社、NORELL社、Wilmad-LabGlass社など、複数の試料管メーカーから発売されています。
反応モニタリング用試料管
二種類の溶液を反応させたときの経過を追う際に用いる試料管が、Wilmad-LabGlass社製のReaction Monitoring Systemです。二種類の溶液を試料管内で混合できるような内管と外管で構成されています (左図)。 内管の先端はフッ素樹脂製で、混合操作をするまで二液を分離しておくことができます。 まず、二種類の溶液をそれぞれ内管と外管に満たし (中央の図を参照)、反応前のサンプルを測定します。 測定後に一旦サンプルをEjectし、内管固定用のねじを緩めて内管を引き上げると二液が混合します (右図)。ねじを締めて内管を固定してからサンプルをLoadし、混合状態のサンプルを測定します。 この試料管では、サンプルの回転を止めて測定します。 また、内管の先端は樹脂製のため、グラジエントシムのRange設定を通常より狭くすることをお勧めします。

※ 各試料管の仕様や取り扱い方法については、各試料管メーカーに直接お問い合わせください。
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