ROSY法によるポリウレタンのソフト&ハードセグメントの13Cスペクトル分離
NM200013
ROSY (Relaxation Ordered SpectroscopY) 法は、混合物の13C CPMASスペクトルを1Hの縦緩和時間で分類することにより13C CPMASスペクトルを物質ごとに分離して表示する方法です。溶液NMRでは1Hスペクトルの各ピークはそれぞれ固有の縦緩和時間を持ちますが、固体NMRでは1H同士の双極子相互作用によってスピン拡散が起き、ある一定距離内のドメインでは全ての1Hは同じ縦緩和時間を持ちます。ROSY法では、この1Hの緩和時間の違いを利用して13Cスペクトルをドメインごとに分離します。混合物の13Cスペクトルの分離には、通常Fig.1aで示すようなsaturation recovery法で得られる縦緩和時間 (T1H) を利用します。この方法で分離できるドメインのサイズはおよそ100nm程度です。これよりも小さなドメインを分離するには、Fig.1bに示すようなスピンロック法で得られる回転座標系の縦緩和時間 (T1ρH) を利用した測定が有効です。T1ρHでは数nmのドメインがあれば分離可能で、ブロックコポリマーの相分離構造や、分子の相溶性などを判別することが出来ます。
Fig.1 Pulse sequence diagrams of saturation recovery (T1H) based ROSY(a) and spinlock (T1ρH) based ROSY(b).
T1ρHを用いたROSY法によるポリウレタンのソフトセグメントとハードセグメントの分離
T1ρHを用いたROSY法の測定例として、ポリウレタン(スマートフォンケース)の13Cスペクトルをソフトセグメントとハードセグメントで分離した例をご紹介します。ポリウレタンは分子内にソフトセグメントとハードセグメントを有しており、それぞれが分子間で凝集してそれぞれのドメインを形成します。ソフトセグメントとハードセグメントを見分ける代表的な方法は、固い部分を観測しやすいCPMAS法と、柔らかい部分をしやすいLD (Low power Decoupling) MAS法を測定することです (Fig.2)。両測定である程度はセグメントの違いをみることは出来ますが、CPMASは固い成分だけなく柔らかい成分を、LDMASは柔らかい成分だけでなく固い成分を少しずつ観測してしまうため、しばしばドメインの帰属が難しくなります。一方、ROSY法は1Hのスピン拡散を通じて空間的な違いからスペクトルを分離するため、より明確に両セグメントを分離できます。Fig.3にT1ρHを用いたROSYスペクトルを示します。T1H-ROSYスペクトルでは両セグメントの分離は出来ませんでしたが (not shown)、T1ρH-ROSYスペクトルでは明確にソフトセグメントとハードセグメントを分離できています。また、T1H-ROSYでは分離できず、T1ρH-ROSYでは分離できたことから、セグメントのドメインサイズは数nmから数10nmであることがわかります。
Fig.3 A T1ρH -ROSY spectrum of poly urethane.
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