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同種核カップリングを用いた立体構造の解析手法の紹介

NM210004

NMRで行う構造解析では平面構造だけでなく、三次元的な構造情報も取得することが出来ます。本資料では1H同士のカップリング定数(J値)を利用して化学種同士の化学結合を介した結合角の情報を得る方法を紹介します。
例えば、シクロヘキサン環に結合している1Hは環に対してアキシアル(略式記号はax)方向またはエクアトリアル(略式記号はeq)方向に結合しています(図1)。このような環構造の各3JHHの二面角はそれぞれ∠Hax-C-C-Hax≒180°、∠Hax-C-C-Heq≒60°、∠Heq-C-C-Heq≒60°と知られています。一方これを図2のカープラス曲線に当てはめると二面角60°では3JHH≒4Hz、一方二面角180°では3JHH≒13Hzに対応します。実際の3JHHは環に結合している置換基に依存するため、完全に一致するわけではありませんが、二面角60°に対して二面角180°の方が大きなJ値を持つという傾向は変わりません。そこでメチレン基の3JHHから少なくとも二面角180°の組み合わせであるかどうかは判別することが出来ます。50mg sucrose in D2Oの測定、解析結果を以下に示します。

シクロヘキサン環の立体配置 a), Newman投影図 b)

図1: シクロヘキサン環の立体配置 a), Newman投影図 b)

シクロヘキサン環のカープラス曲線

図2: シクロヘキサン環のカープラス曲線

J分解分光法 

ご存じの通り、通常の1H NMRの信号は近傍の1Hとのカップリングにより信号が分裂するため、その分裂幅を読むことでJ値の情報は得られます。ただし複数の異なった環境の1Hとカップリングしている1H(多スピン系と呼びます)については1H NMRでJ値を読むことが困難な場合があります。そういった場合に従来から用いられてきた手法としてJ分解分光法があります。

a) 1H NMRスペクトル 拡大図,  b) J分解分光法(tilt処理後) 拡大図

図3: a) 1H NMRスペクトル 拡大図,  b) J分解分光法(tilt処理後) 拡大図

1) Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 49, 3481-3484

図3の3.4ppmの信号はa)の1H NMRでは一見トリプレットに見えますが、J分解分光法で確認するとダブルダブレットであり、またJ値もきちんと読むことができます。一方どの1Hとのカップリングが9.7Hzおよび9.9Hzかは直感的にわかりません。こういった場合、G-SERF 1) (Gradient-encoded homonuclear SElective ReFocusing spectroscopy)を用いると、選択した1H信号とカップリングパートナーとそのJ値をまとめて確認することが可能です。

G-SERF

G-SERFのパルスシーケンスを図4に示します。 本測定法は独立した1つの信号を選択的に照射します。すると2Dスペクトルにはその信号とカップリングする信号のみがF1軸方向に分裂して観測されます。図5にG-SERFスペクトルを示します。矢印で示す3.5ppmの信号が選択信号です。スペクトルから3.5ppmの信号は3.7ppmと5.35ppmの2つの1H信号とカップリングしており、それぞれの1HとのJ値は10.0Hz, 4.0Hzだとわかります。残りの1H信号はF1軸方向へ分裂していません。

G-SERFのパルスシーケンス

図4: G-SERFのパルスシーケンス

G-SERFスペクトル

図5: G-SERFスペクトル

Clean G-SERF

G-SERFの解析をする際、1H信号が密集した領域で2Hz以下の小さなカップリングがある場合は注意が必要です。
他のカップリングのない信号が邪魔になり、カップリングがあるかどうかの判断が難しい場合があります。そういった場合にはClean G-SERF 2)がより有効な測定手法となります。本測定法ではカップリングした相関信号以外が消去されるため、前述の場合でも解析が容易になります。一方感度面ではG-SERFに劣ります。

Clean G-SERFのパルスシーケンス

図6: Clean G-SERFのパルスシーケンス

Clean G-SERFスペクトル

図7: Clean G-SERFスペクトル

Sucroseの構造

図8: Sucroseの構造

2) RSC Adv. 2017, 7, 735-741

図8にSucroseの構造を示します。3.5ppmの1HがGlucoseのH-2に対応します。そして3.7ppmがH-1、5.35ppmがH-3です。J値からH-1とH-2の間の二面角は≒60°、H-2とH-3の間の二面角が≒180°と推定され、実際の立体構造と一致します。

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