diffusionフィルターの利用 (低分子由来信号の低減)
NM220001
主な用途と特徴
混合試料の測定において、低分子成分や溶媒などの拡散係数の大きい成分由来の信号を低減させ、高分子などの拡散係数の小さい成分由来の信号を強調する際に用います。そのため試料によっては溶媒消去として有効に活用できます。特定の周波数を選択して消去する溶媒消去法とは異なり、物理的性質の違いによってフィルタリングするため、溶媒信号付近の信号であっても拡散の遅い成分由来の信号は残る、という他にはない特徴があります。
測定について
測定の仕方、パラメーターの設定の仕方については通常の拡散測定と全く同一です。欲しい信号のみが強調されたスペクトルが得られるように拡散条件の検討は必要ですが、磁場強度などを可変させた二次元スペクトルではなく一次元スペクトルを測定するだけでよいため、通常の1H NMRとほとんど変わらない測定時間でスペクトルを得ることができます。例えば図1は磁場勾配強度と1Hの信号強度の関係を示しており、赤が拡散係数の小さい成分で青が拡散係数の大きい成分です。そして破線で示す磁場勾配強度G = 0.3 T/mの条件では青の成分はほぼ信号強度0となり、赤だけが強調されたスペクトルになります。Diffusionフィルターにおける条件設定ではこのような条件が適切です。

図1: 磁場勾配強度と1Hの信号強度の関係
本資料ではハンドソープの原液を用いて、Diffusionフィルターの効果を紹介します。この試料の1Hスペクトルは図2に示す通りです。

図2: ハンドソープの1Hスペクトル
図3の1Hスペクトル、diffusionフィルターを比べると1~2 ppmの信号についてはほとんど強度変化がありませんが、2~4 ppmの信号については信号が見えなくなっていることがわかります。そこで2 ppm~4 ppmの信号は高磁場側の信号に比べて拡散係数の大きな成分 (低分子由来の成分) であることが判別できます。

diffusionフィルターのパラメーター
diffusion time: 0.18 [T/m]
delta: 4 [ms]
g: 0.28 [T/m]
図3: a) 1H スペクトル、b) diffusionフィルターの比較スペクトル
また図4にpresaturationを加えた比較スペクトルを示します。○で示す信号に着目すると、1Hスペクトルやpresaturationでは巨大信号の中に隠れてしまったり、周波数選択照射の際に一緒に消えてしまったり、といった理由で確認することが困難ですが、diffusionフィルターではしっかりと信号が確認できます。

図4: a) 1H スペクトル、b) presaturation、c) diffusionフィルターの比較スペクトルY軸拡大
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