溶媒によるESR信号の線形変化
ER220006
溶媒によるTEMPOLのESR信号の線形変化
試料の溶媒によるESR信号の変化は、g値、超微細結合定数 (A値) と線幅などに観測されることが知られています。例えば、試料の分子運動が速い場合、等方的なA値にその影響が現れ、極性溶媒中では窒素原子上の不対電子密度が増加してその値は大きくなると考えられています [1]。g値は極性溶媒中では値が減少する傾向にあります [2]。線幅は、試料の回転相関時間の違いから溶媒との相互作用を反映した効果が現れると考えられます。
TEMPOLをベンゼン、ジメチルホルムアミド (DMF)、超純水に同濃度 (10-3 mol / L)で溶解させた試料をキャピラリーチューブにて同量を採取して測定した結果を図1に示します。それぞれの溶媒におけるニトロキシドラジカルのESR信号のg値、A値と線幅を表1にまとめました。溶媒の誘電損失は、ベンゼン<DMF<超純水の順に大きくなります。図1より超純水に希釈した場合のESR信号の強度が最も大きくみえますが、面積で比較すると誘電損失の大きな溶媒ほど面積は小さくなりました。このように溶液中のラジカルはその置かれる環境によってg値、 A値や線形が変化することが分かります。



図1. 溶媒に希釈したTEMPOLのESR信号の線形
(A) ベンセン (B) ジメチルホルムアミド (C) 超純水
表1. 溶媒によるESRパラメータの比較
溶媒 | g値 | A値 (mT) | 線幅 (mT) |
---|---|---|---|
ベンゼン | 2.0062 | 1.53 | 0.34 |
ジメチルホルムアミド | 2.0062 | 1.57 | 0.23 |
超純水 | 2.0058 | 1.70 | 0.17 |
参考文献
[1] 大矢博昭・山内淳 (1989) : 電子スピン共鳴 素材のミクロキャラクタリゼーション, 株式会社講談社, p302.
[2] 石津和彦 (1981) : 実用ESR入門 -生命科学へのアプローチ-, 株式会社講談社, p318.