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グラフェン類のESR

ER230001

グラフェンの大きさと量子サイズ効果

図1 GQD分散水溶液のフォトルミネッセンス現象

(a) GQD分散水溶液(光照射なし)、
(b) 375nmの紫外線を照射したGQD分散水溶液の発光(青色) 。

グラフェンは、炭素原子が2次元に配列された、単原子層の厚さをもつシート状の分子で、高い電子の移動度に代表されるような魅力的な物性を兼ね備えていることから、盛んに研究されいている材料である。

グラフェンを厚み方向だけでなく、平面方向も原子サイズに小さくしていくと、量子サイズ効果を発現し、“グラフェン量子ドット(Graphene Quantum Dot : GQD)”と呼ばれる全く新しい性質を持った物質に変化する。

図1に示すように、GQDは、通常のグラフェンシート分子とは異なり、フォトルミネッセンス現象を示す。この性質を利用して、生体センサーや太陽電池の材料など、様々な先端デバイスへの応用が期待されている。

グラフェン量子ドットの構造とESRスペクトルの特徴

グラフェンは伝導電子を有する。GQDは、組成や結晶構造はグラフェンと同じであるので、同じく伝導電子を有することが予想される。図2に示すのは、GQD粉末試料の、室温におけるESRスペクトルと、その高分解能透過電子顕微鏡(HR-TEM)像である。

通常、伝導電子のESRスペクトルは、ダイソン型と呼ばれる線型パターンを示す。図2(a)を見ると分るように、ESRスペクトルはわずかな歪(𝐴𝐵>1.0)をもつダイソン型の線型であることから、この電子は伝導電子であると考えられる。スピン濃度は、定量測定から5×1017 spins/gと見積もられた。また、量子ドットとしての特性は、組成ではなく大きさや形状に依存するため、電子顕微鏡像の観察により、その物性と品質評価を相補的に検証することを可能にする。図2(b)に示す透過電子顕微鏡像から、おおよその直径が10 nm程度からなる複数粒子の凝集状態が確認できる。

図2 GQD粉末試料のESRスペクトル(a)とHR-TEM像の例(b)

還元型酸化グラフェンのESRスペクトル

図3 rGO粉末試料のESRスペクトルの例

(a) 実測スペクトル、 (b) シミュレーションスペクトル、(c) GQD粉試料のQ-dip、(d) rGO粉末試料のQ-dip

還元型酸化グラフェン(reduced Graphene Oxide : rGO)は、センサー、トランジスタ、電池など多岐にわたる応用が期待される機能性材料として知られている[1]。分子構造は、グラフェンと同様の2次元ナノシート状となっている。

図3に示すESRスペクトルは、rGOの室温におけるESRスペクトルである。ブロードな帯域をもつスペクトルは、6本の分裂線を有している。g値(~2)と分裂ピーク間隔から、孤立したMn2+イオンの信号であることが予想される。線幅の異なる2成分のMn2+イオンの混合状態と仮定して、スペクトルシミュレーションを実行すると、図3(b)に示すように、実測のスペクトルパターンをほぼ再現することから、Mn2+イオンのHigh spin型d軌道電子(S = 5/2)であることが予想される。

酸化グラフェンは、その製造方法によって、酸化剤として過マンガン酸カリウムを用いることがある。既報文献[2]においても、この過マンガン酸の分解生成物と考えられる残留Mn2+イオンのESRスペクトルが報告されていることから、予想されるこのMn2+イオンも、製造工程で生じた残留不純物と考えられる。基準物質(例えばMnSO4水溶液)を用いて、残留Mn2+量を定量すると、5×1018 ions/gの濃度であることが分かった。

また、このrGO試料では、量子ドットにみられたような、炭素原子上の伝導電子ESRスペクトルは確認できなかった。図3の(c)と(d)に示すように、rGO試料をキャビティ内へ挿入した時のQ-dipがGQD試料と比べて、劇的に浅く、広幅となっていることから、材料の化学処理によって伝導性が向上し、伝導電子の緩和速度が劇的に増加するなど、電子の性質が大きく変化したことを示唆しているものと考えられる。

還元型酸化グラフェンのHR-TEM像

図4 還元型酸化グラフェン粉末試料のTEM像とHR-TEM像

図5 還元型酸化グラフェン粉末試料の元素マップ (a) と、EDSスペクトル (b-c)

GQD試料では、伝導電子のみの信号が、rGO試料では、不純物と思われる信号のみが得られた。GQDと同様にrGOにおいても電子顕微鏡像を撮像した。図4に示すように、量子ドットとは異なり、粒子の集まりではなく、シート形状であることが分かる。

次に、図5(a)に示す元素マップと同図5(b),(c)に示すEDS (Energy-dispersive X-ray spectroscopy) スペクトルから、非常に微量のMn元素が確認できる。これは、製造工程で生じた過マンガン酸の残留物と推察され、ESRで観測されたMn2+イオンの存在予想とも対応している。

図3(c)、(d)に示すように、rGOの粉末試料をキャビティへ挿入した時のQ-dipは、rGOの方がGQDよりも浅くて線幅が広く、キャピラリー管などを使用しないと十分なS/Nの信号が得られない。すなわち、マクロな物性であるrGOの電気伝導度が著しく高いことを意味する。

このように、たとえ組成が同じであっても、ナノレベルでの分子形状の違いによって、ミクロな電子状態(欠陥構造や伝導電子の状態)とマクロな物性(電気伝導度や光学特性)は劇的に変化する。それゆえ、分光計測(ESR)と構造観察(TEM)との相補的で複合的な分析は、ナノサイズの炭素材料評価にとって、非常に有効であるといえる。

References

[1] 日本化学会編 『二次元物質の科学』 化学同人( 2017 ), [2] A. M. Panich , A. I. Shames, and N. A. Sergeev, Appl. Magn. Reson., 44, 107 (2013).

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