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JMS-S3000 "SpiralTOF™-plus 2.0"を用いた結晶性の異なるポリエチレンテレフタレートの構造解析 [MALDI Application]

MSTips No. 407

ポリエチレンテレフタレート (PET) はエチレングリコールとテレフタル酸を重縮合して得られる透明性・靭性・剛性・耐熱性などに優れた熱可塑性ポリエステルである (Figure 1)。PETは加工方法によって、結晶性PET (C-PET) と非晶性PET (A-PET) の2種類に大別できる。C-PETは結晶化した部分の分子が規則正しく配列することで密度が高くなり、高い強度・耐熱性を持つといった特徴を持つ。A-PETは衝撃強度が高く、曲げ加工などが容易という特徴をもつ。しかし、A-PETは長期間の使用や熱履歴で非晶部分がゆっくりと結晶化し、経時変化を起こし、密度変化により内部応力を生じてポリマー鎖を切断するため、柔軟性、耐衝撃性、強度などが低下していく場合がある。そこで、PET樹脂中のエチレングリコールの30~40%程度をシクロヘキサンンジメタノールで置き換えたポリマーが考案され、これはグリコール変性PET (G-PET, PETG) と呼ばれている (Figure 2)。G-PETは成形加工時でもポリマーが結晶化しないことから、非晶性樹脂として扱われている。既報 [1] では、2種類の市販PET樹脂 (フィルム状PETフと板状PET) に対して反応熱分解GC-TOFMSおよびNMRで構造解析を行い、フィルム状PETはPET、板状PETはG-PETであることを確認した。本報告では高分解能MALDI-TOFMS JMS-S3000 "SpiralTOF™-plus 2.0"とケンドリックマスディフェクト (KMD) 解析を組み合わせて同サンプルのオリゴマー領域の解析を実施した。

Figure 1 PET (A-PET & C-PET) structural formula 

Figure 2 G-PET structural formula 

実験

サンプルには、市販のフィルム状PETと板状PETをそれぞれ凍結粉砕し、10 mg / mLの濃度でHFIPに溶解した。マトリックスに2′,4′,6′-トリヒドロキシアセトフェノン (THAP) を、カチオン化剤にトリフルオロ酢酸ナトリウムを用いた。マススペクトルの取得は、JMS-S3000 (日本電子製) のSpiral正イオンモードで行った。KMD解析にはmsRepeatFinder V6 (日本電子製) を用いた。

結果

フィルム状PETと板状PETのマススペクトルをFigure 3に示す。PETフィルムからは主に環状のオリゴマーが[M+Na]+として観測された (Figure 3a)。 板状PETからはフィルム状PETよりも複雑なマススペクトルが得られた。既報 [1] で板状PETはG-PETであることから、C10H8O4 (192.042u) とC16H18O4 (274.121u) のコポリマーであることを前提に解析を進めた。その結果、マススペクトルには192uと274uの繰り返し単位をもつポリマーシリーズが複数含まれていることが分かった (Figure 3b)。このようにオリゴマー領域においても反応熱分解GC-TOFMSとNMRから得られた構造と一致する情報が得られた。一方で特に板状PETのマススペクトルからでは詳細な解析は困難であるのでKMD解析を実施した。

 

Figure 3 The mass spectra from film PET and plate PET

 

Figure 4にフィルム状PETおよび板状PETのマススペクトルをKMDプロット (Base unit C10H8O4, Divisor 199) で表示した。Figure 4aはフィルム状PETのKMDプロットであり、横軸に水平なシリーズが観測されていることからC10H8O4を繰り返し構造にもつPETのホモポリマーであることが分かる。末端基解析結果、主に環状構造と環状構造+ (C2H4O) の2つのシリーズが[M+Na]+として観測された。Figure 4bは板状PETのKMDプロットであり、格子状のシリーズが2つ観測された。これらはC10H8O4 (192.042u) とC16H18O4 (274.121u) のコポリマーのシリーズであった。また2つの格子状のシリーズのKMDプロット上の位置から、フィルム状PETと同じく環状構造と環状構造+ (C2H4O) の構造であることがわかった。これら2つの構造の重合度プロットをFigure 5に示す。両者の重合度プロットは同一の傾向を示すことが分かった。また重合度プロットからC10H8O4とC16H18O4のモル比を算出した (カッコ内はC10H8O4のホモポリマーを除いた計算値である)。この結果、エチレングリコールとシクロヘキサンジメタノールの比を算出したところ、その比はおおよそ7:3となった。

 

Figure 4 The mass spectra from film PET(a) and plate PET(b)

 

Molar ratio
C10H8O4 : 72.9% (68.8%), C16H18O4 : 27.1% (31.2%)

Molar ratio
C10H8O4 : 72.7% (69.1%), C16H18O4 : 27.3% (30.9%)

Figure 5 DP plot of Cyclic(a) and Cyclic+(C2H4O) (b) polymeric series of plate PET

まとめ

本アプリケーションノートでは、市販のフィルム状PETと板状PETに含まれるオリゴマー成分についてMALDI-TOFMSにて解析を行った。既報 [1] で反応熱分解GC-TOFMSおよびNMRで構造推定を行った結果をMALDI-TOFMSの解析に利用することで解釈が容易となった。反応熱分解GC-TOFMSおよびNMRは試料全体分析であるのに対し、MALDI-TOFMSではオリゴマー領域を選択的に構造解析が可能であり、重合度プロットを作成することでG-PET中のエチレングリコールとシクロヘキサンンジメタノールの算出も可能である。このように各手法から得られる情報を用いることがポリマーの総合的な構造解析に有効である。

参考文献

[1] MSTips No.400「反応熱分解GC-TOFMSとNMRを用いた結晶性の異なるポリエチレンテレフタレートの構造解析」

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