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反応熱分解GC-TOFMSとNMRを用いた結晶性の異なるポリエチレンテレフタレートの構造解析

MSTips No. 400

ポリエチレンテレフタレート (PET) はエチレングリコールとテレフタル酸を重縮合して得られる透明性・靭性・剛性・耐熱性などに優れた熱可塑性ポリエステルである (Figure 1)。PETは加工方法によって、結晶性PET (C-PET) と非晶性PET (A-PET) の2種類に大別できる。C-PETは結晶化した部分の分子が規則正しく配列することで密度が高くなり、高い強度・耐熱性を持つといった特徴を持つ。A-PETは衝撃強度が高く、曲げ加工などが容易という特徴をもつ。しかし、A-PETは長期間の使用や熱履歴で非晶部分がゆっくりと結晶化し、経時変化を起こし、密度変化により内部応力を生じてポリマー鎖を切断するため、柔軟性、耐衝撃性、強度などが低下していく場合がある。そこで、PET樹脂中のエチレングリコールの30~40%程度をシクロヘキサンジメタノールで置き換えたポリマーが考案され、これはグリコール変性PET (G-PET, PETG) と呼ばれている (Figure 2)。G-PETは成形加工時でもポリマーが結晶化しないことから、非晶性樹脂として扱われている。
本アプリケーションノートでは、2種類の市販PET樹脂に対して反応熱分解GC-TOFMSおよびNMRで分析を行い、各々PETもしくはG-PETであるか解析した結果について報告する。

Figure 1 PET (A-PET & C-PET) structural formula

Figure 2 G-PET structural formula

実験

サンプルには、市販のフィルム状PETと板状PETをそれぞれ凍結粉砕したものを用いた。各分析装置での測定条件は以下に示す。

反応熱分解GC-TOFMS

測定には、パイロライザー EGA/PY-3030D (フロンティア・ラボ社製) を装着したガスクロマトグラフ飛行時間質量分析計 JMS-T2000GC (日本電子製) を使用した。サンプルを水酸化テトラメチルアンモニウム25%w/w メタノール溶液 (TMAH) 10 µLとともに測定に供した (EI法: n=3, FI法: n=1) 。サンプル量は、EI法で0.2mg、FI法で0.5mgとした。得られたデータは、msFineAnalysis (日本電子製) を用いてフィルム状PETと板状PETの2検体試料間の差異分析を行った後、G-PETに特徴的な成分の定性解析および構造推定を行った。その他の詳細条件は、Table 1に示す。

NMR

試料をトリフルオロ酢酸 (TFA-d1) に溶解しJNM-ECZL400S (日本電子製) を用いて1H NMR測定を行った。構造解析にはPoLyInfo (NIMS) [1] のNMRデータベースを参考にした。

 

左がJMS-T2000GC、右がJNM-ECZL400Sの写真

Table 1 Py-GC-TOFMS measurement and analysis conditions

Pyrolysis conditions
Pyrolyzer EGA/PY-3030D (Frontier Lab)
Pyrolysis Temperature 400°C
GC conditions
Column DB-5MS UI (Agilent Technologies)
30 m x 0.25 mm, 0.25 μm
Oven Temperature 40°C (2 min) - 20°C/min
- 320°C (10 min)
Injection Mode Split mode (100:1)
Carrier flow He: 1.0 mL/min
MS conditions
Spectrometer JMS-T2000GC (JEOL Ltd.)
Ion Source EI/FI combination ion source
Ionization EI+:70 eV, 300 μA
FI+:-10 kV
Mass Range m/z 29 - 600

結果

反応熱分解GC-TOFMSの測定結果

Figure 3に反応熱分解GC-TOFMSのEI法TICCを示す (青色: フィルム状PET、赤色: 板状PET) 。 両サンプルの共通成分としてピーク1~3が観測された。また、板状PETに特徴的な成分としてピーク4~11が観測された。Table 2に、板状PETにおける、ピーク1~11のmsFineAnalysis AIによる統合解析結果を示す。統合解析とは、EIスペクトルを用いたライブラリーデータベース (DB) 検索結果とFIスペクトルの分子イオン組成推定結果を統合して解析し、組成式を一意に決定する手法である。これより、ピーク1~3はPETの反応熱分解生成物であるテレフタル酸およびエチレングリコールのメチル化体であることが分かった。ピーク6, 7 とピーク8, 9は、DB検索とFIスペクトルの分子イオン組成推定の結果からFigure 3中の構造B, Cと推定された。ピーク4と5はDB検索では該当化合物はなかったものの、EIスペクトルとFIスペクトルの分子イオン組成推定の結果から構造Aと推定できた。また、ピーク4, 5およびピーク6, 7およびピーク8, 9は、それぞれ分子式が同じであることから異性体と推定される。以上のようにピーク4~9は、シクロヘキサンジメタノール由来のメチル基の数が異なる3種類の反応熱分解生成物であることが分かった。また、それぞれに2種類の異性体があると推測された。

次にピーク10はDB検索結果とFIスペクトルの分子イオン組成推定結果から構造Dと推定され、PETの楮式を反映した反応熱分解生成物であった。一方、ピーク11はDB検索で該当化合物がなかったため、EIスペクトルをピーク10のそれと比較した時の特徴的なスペクトル (m/z 93, 108, 126) や、FIスペクトルの分子イオン組成推定の結果から構造解析を実施した。その結果、テレフタル酸とシクロヘキサンジメタノールが結合した構造Eと推定できた。

以上の結果より、フィルム状PETはPET (A-PET or C-PET)であり、板状PETはG-PETであることが推定された。

 

Figure 3 TICC of EI data

 

Table 2 Integrated qualitative analysis result of Plate PET

表組みの画像

peak 10
peak 11

Figure 4 Mass spectra of peaks 10 and 11

1H NMRの測定結果

Figure 5にフィルム状PETおよび板状PETの1H NMRのスペクトルを示す。両サンプルのスペクトルにおいてテレフタル酸およびエチレングリコール由来のピーク1, 2が共通して観測された。一方、板状PETにのみ、化学シフト1~5 ppm付近に複数のピーク (ピーク3~12) が観測された。板状PETは反応熱分解GC-TOFMSの結果からG-PETであると推定されたため、PoLyInfoでポリマー名で検索し収載されているNMRスペクトルと観測されたNMRを照合し類似性が高いことを確認してピークの帰属を行った。その結果、ピーク3~12はシクロヘキサンジメタノール由来であることがわかった。NMRスペクトルでは構造異性体ピークが分離しているため解析が可能な点が特徴的である。また、板状PETについて各ピーク面積値からエチレングリコールとシクロヘキサンジメタノールの比を算出したところ、その比はおおよそ2:1となった。

 

Figure 5 1H NMR spectra of Film PET and Plate PET

まとめ

本アプリケーションノートでは、市販のフィルム状PETと板状PETを反応熱分解GC-TOFMSおよび1H NMRで測定し、構造解析を行った結果について報告した。反応熱分解GC-TOFMSでフィルム状PETおよび板状PETの構造の違いを明らかにし、それぞれPET (A-PET or C-PET) およびG-PETであることが推定できた。その情報をもとに1H NMRの結果の解析が容易となり、構造異性体やエチレングリコール/ シクロヘキサンジメタノールの比率の議論が行えることが分かった。このように各手法から得られる情報をポリマーの構造解析にて総合的に利用することが有効である。

参考文献

[1] NMRデータベース,  https://polymer.nims.go.jp [accessed 2022-08-31]  

 

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