二次元19F–19F TOCSYによる混合物の分離
—成分ごとに一次元19Fスペクトルを得る方法—
NM230004
医薬品や農薬の研究開発において、ペルフルオロアルキル化合物は重要な役割を果たしています。これらの化合物の解析には、一次元19F NMRが強力なツールとなり、需要が高まっています。19Fは1Hに次いで感度が高く、観測が容易です。さらに、化学シフト範囲が広く、信号の分離がよいという特長があります。ところが、混合物の解析は非常に複雑になります。それぞれの化合物の化学的性質が類似しており、19F信号の重複が起こり得るためです。同様の理由でクロマトグラフィーによる分離も難しく、混合物のまま各化合物の一次元NMRスペクトルを得る方法が望まれています。
混合物のスペクトルから一次元スペクトルを得る方法としては、二次元TOCSYが知られています。高磁場のNMR装置で19F–19F TOCSY [1]を測定するには、19Fの広い化学シフト範囲をカバーするラジオ波パルスが必要です。ところが、このようなラジオ波パルスの使用は難しく、19F TOCSYを汎用的に測定するには問題がありました。近年、19Fの化学シフト範囲に対応するために、図1に示すBURBOPパルスを用いた19F TOCSY [2]が報告されました。ここでは、BURPOPパルスを用いた19F TOCSYにより、化合物ごとに一次元19F スペクトルを抽出する方法をご紹介します。

図1. BURBOPパルスを用いた二次元19F TOCSYのパルスシーケンス
二次元19F TOCSYによる混合物のスペクトル分離
二次元TOCSYは十分に長い混合時間で測定すると、カップリングがあるすべてのスピンに磁化移動が起こります。そのため、化合物ごとに一次元スペクトルを抽出することが可能です。例として、図2に二種類の有機フッ素化合物の混合試料の二次元19F TOCSYスペクトルを示します。-121.8 ppm (赤い点線) と-126.8 ppm (青い点線) でスライスデータを作成しました。図3の (a) は混合物の一次元19Fスペクトル、(b) が-121.8 ppm、(c) が-126.8 ppmのスライスデータです。得られたスライスデータが各成分の一次元に相当する19Fスペクトルです。このように、混合物の二次元19F TOCSYより各成分の一次元19Fスペクトルを抽出し、混合物の信号を区別することができます。
装置:JNM-ECZL400S (Delta NMRソフトウェア V6.3), ROYALプローブ™ HFX
シーケンス:19f_tocsy_burbop_abs_pfg.jxp
試料:2,2,3,3-tetrafluoro-1-propanol, 3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-tridecafluoro-1-octanol in CDCl3
[1] Anal. Chem., 65, (1993) 752-758, [2] J. Magn. Reson., 285, (2018) 143-147.