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ホスホン酸アルキル混合試料のNMR解析例

NM230005

リン含有化合物のNMR測定において、リン(31P)近傍の1Hおよび13Cの信号がカップリングによって複雑化します。またリン含有化合物の中には溶媒中で不安定で、分解物が生じるものもあり、1Hや13C NMRが複雑化する場合があります。そういった試料を測定する際に、31P NMRの情報をうまく使用することで構造解析に役立つ情報を抽出することができる例を紹介します。本資料の測定では1H, 31P, Xの三重共鳴測定が可能なROYALプローブTM P+[1] とLFチャンネルを追加した3チャンネル仕様のJNM-ECZL600Gを使用しました。

試料情報

オレフィン化反応に使用するホルナー-エモンズ試薬として知られるホスホン酸アルキルである、メチルホスホン酸ジエチル 1、ジメチルホスホノ酢酸エチル2 (エトキシメチル)ホスホン酸ジエチル 3 を混合して各4.8vol% CDCl3の測定試料としました。

¹³C NMR スペクトル

31P近傍の13C信号はC-Pのカップリングで分裂するため、図1, 図2で示すように多くの13C信号が観測されます。本試料のように類似化合物の混合試料の場合、化学シフトの近い信号が多いのでなおさら別々の信号なのか31Pとのカップリングによるダブレットなのかの判別がしづらくなります{図2 a)およびb)}。そういった場合には、13C観測時に1Hに加え、31Pのデカップリングも行うことでスペクトルを単純化させることができます{図2 c)およびd)} 。 図2の二重共鳴、および三重共鳴測定を比較することで正確な化学シフト、分裂幅を確認することができます。ホスホン酸アルキルの特徴として31Pと直接結合した13Cが100Hz以上の大きな分裂を引き起こす点が挙げられます。そのため 、分裂幅を読むことでカップリングの大きな10.85ppm(JCP=144Hz) ※1、33.13ppm (JCP=135Hz) ※2、 64.35ppm (JCP=167Hz) ※331Pと直接結合した13Cであるとわかります。それ以外にも小さな分裂が確認でき、これは2結合および3結合を介したC-Pカップリングです。表1に各13C号の化学シフトと分裂幅を記します。

図1: ¹³C NMRスペクトル 全体図
図2: ¹³C NMR 高磁場側拡大図
50ppm~70ppmのa) ¹³C{¹H}スペクトル, b) ¹³C{¹H}{³¹P}スペクトル
10ppm~35ppmのc) ¹³C{¹H}スペクトル, d) ¹³C{¹H}{³¹P}スペクトル
No. 13C/ppm 分裂幅/Hz
1 10.85 1Jcp=144
2 13.75 -
3 14.57 -
4 16.08 nJcp=7
5 16.15 nJcp=6
6 33.13 1Jcp=135
7 52.84 nJcp=6
No. 13C/ppm 分裂幅/Hz
8 61.14 nJcp=6
9 61.35 -
10 62.05 nJcp=7
11 64.35 1Jcp=167
12 68.73 nJcp=12
13 165.29 nJcp=6

表1: 13C信号の化学シフトと分裂幅

¹H-³¹P HMBCの解釈の難しさとdouble-INEPT法の利用

図3に1H-31P HMBCスペクトルを示します。2結合および3結合を介した1H-31Pカップリングが観測されますが、本スペクトルからはそれぞれの区別は難しいです。一方で1H-13C-31Pのdouble-INEPTの測定を行うと2結合の1H-31Pのみを選択的に抽出できます [2]。そこで1H-31P HMBC(図3)と1H-13C-31P double-INEPT(図4)を比較することで2結合、3結合の区別をつけることができます。double-INEPTでは1JCHおよび1JCPのカップリングを利用して相関を得ますが、ホスホン酸アルキルの1JCPは前述の通り大きなカップリング定数を持つため、これに合わせてパラメータを設定することで、H-C-Pの結合のみを抽出する事が可能です。

 

1H-31P HMBCで得られる相関

図3: ¹H-³¹P HMBCスペクトル
Longrange_j : 8Hz

1H-13C-31P double-INEPTで得られる相関

図4: ¹H-¹³C-³¹P double-INEPTスペクトル
j_ch : 140Hz, j_cp : 145Hz

³¹P-¹³C のカップリングパートナーの整理

1H-31P相関だけでなく、31P- 13C相関も構造解析する上で重要な情報です。 31P- 13C相関測定によって各31P信号の13Cのカップリングパートナーをまとめて振り分けることが可能です。図5に31P- 13C LR-HSQCスペクトルを示します。パルスプログラム自体はHSQCですがパラメータを遠距離相関に合わせて設定しているため、小さなカップリングの相関も合わせて得られています。13C NMRと図5の各31Pの相関信号のスライススペクトルを図6に示します。これによって各13C信号がどのホスホン酸アルキル由来の信号なのかをまとめて判別することが可能です。図6では各31Pから3結合以内の13C信号についてはすべて相関が観測されていることがわかります。

図5: ³¹P- ¹³C LR-HSQC{¹H}{¹³C}スペクトル
J_constant : 10Hz
図6: ¹³Cスペクトルおよび³¹P- ¹³C LR-HSQC{¹H}{¹³C} のスライススペクトルの比較
※は既知の直接結合の相関

参考文献

  • JEOL アプリケーションノート NM220010

  • Tetrahedron Letters 48 (2007) 7586–7590

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