NMRで定量分析ができるわけ
Issue 3
なぜ定量ができるの?
1Hスペクトル上の信号の面積(積分値)はその信号のプロトン数とモル濃度に比例します。
I = kcH
(Iは信号面積値、Kは定数、cはモル濃度、Hはプロトン数を示す)
NMRはクロマトグラフ法のように分子の特性(UVや吸光度など)を観測していな
いので、この関係は分子が異なってもなりたます。つまりレスポンスファクタ
は分子に依存しません。これはNMRによる定量分析の基本となります。
ここで2つの分子を使って、少し具体的に計算の仕方をご紹介します。アセト
アミノフェンとヒドロキシ安息香酸メチルを同じモル濃度で調整したときの1H
スペクトルを図1に示します。この2つの分子は構造が似ていてもこのようにス
ペクトルパターンが異なります。この2つの分子のメチル基に注目すると(図2)
、積分値は同じモル濃度で調整しているので分子が異なっていても同じ積分値
を示します。レスポンスファクタは分子に依存しないことがお分かりいただけた
と思います。では、もう1つ測定試料を調製した結果を図3に示します。アセトア
ミノフェンを定量基準とするために濃度を調整して試料調製をしています。最初
の式に基づいて、分子間でもこの関係式は成り立ちますので、式1により、アセト
アミノフェンからヒドロキシ安息香酸メチルの濃度がわかります。定量をする際
に対象としているモル濃度比は明らかになりますので、標準物質の純度を考慮す
ることで、分析対象成分の純度を求めることができます。(図4)
図1 アセトアミノフェンとヒドロキシ安息香酸メチルの1H-NMRスペクトル
図2 アセトアミノフェンとヒドロキシ安息香酸メチルの1H-NMRスペクトル(拡大)
図3 アセトアミノフェンとヒドロキシ安息香酸メチルのqNMRスペクトル
図4 スペクトル上の分子間の関係式
NMR現象はほとんど、量子力学の上で定量的に表現をすることができます。
従って、定量分析の原理も厳密には少し複雑にはなりますが数式で表すことが可能です。ここではイメージをつかんでいただくことを目的にしていますので、興味のある方はNMRの本をご参照ください。ここでは定量NMRの原理について取り上げている本をご紹介します。
U.Holzgrabe, I.Wawer, B.Diehl “NMR SPECTROSCOPY IN PHARMACEUTICAL ANALYSIS” ELSEVIER (2008)
竹内 敬人、加藤敏代 「よくある質問 NMRの基本」 講談社 (2012)
qNMRプライマリーガイド 共立出版社 (2015)