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JMS-S3000 "SpiralTOF™-plus" におけるイメージング質量分析能力の向上 [MALDI Application]

MSTips No.304

マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)では、イオン化促進剤であるマトリックスと試料溶液を混合し、滴下風乾することで共結晶を作成する。その上から紫外レーザーを照射することで試料分子を脱離イオン化する。試料にあわせて適切なマトリックスを選択することでタンパク質、ペプチド、核酸、糖、脂質、薬剤、合成高分子など種々の有機化合物をイオン化することが可能である。MALDIでは広い分子量域のイオンが1価イオンとして生成すること、イオン化に使用するレーザーがパルスレーザーであることから飛行時間質量分析計(TOFMS)との相性がよく、リフレクトロンTOFMSが質量分析部として広く使用されてきた。しかし、リフレクトロンTOFMSの質量分解能では低分子量域の分析能力が不十分なこともしばしばで、特に分子量500以下にいたっては適用不可能とさえいわれてきた。その理由として質量分解能が不十分な点以外に、自発的な開裂であるポストソース分解(PSD)由来のイオンがノイズとして低分子量域に検出され、微量成分の検出が困難であることも挙げられる。JEOLでは独自のらせん軌道型イオン光学系を備えたMALDI-TOFMS JMS-S3000 "SpiralTOF™"を2010年に市場導入した。"SpiralTOF™"は、らせん軌道により限られた空間内に17mという飛行距離を実現し、広い質量範囲での超高分解能・超高質量精度を達成した。またイオン光学系を構成する扇形電場によりPSD由来のイオンを除去することができ微量成分の検出も容易である。これによりリフレクトロンTOFMSが苦手としてきた低分子量域の解析も高質量分解能・高質量精度で分析可能である。近年、試料表面の有機化合物の分布を可視化できるイメージング質量分析(MSI)が実用的になってきているが、そのターゲット化合物の多くは低分子化合物であり、SpiralTOF™の低分子解析能力の高さは大きなメリットとなる[1-3]。2019年秋にSpiralTOF™は、高質量分解能という特長はそのままに、イメージング質量分析機能を強化し"SpiralTOF™-plus"へとリニューアルした(Fig. 1)。本報告では、SpiralTOF™-plusの特長および実際の分析での利点について紹介する。

SpiralTOF™-plusの改良点

SpiralTOF™-plusでは、従来SpiralTOF™よりMALDI-MSI測定のデータ取得スピードを最大3倍向上するとともに最大ピクセル数を32,000点から200,0000点まで拡大した。MALDI-MSIにおいて最も時間を要する作業は、マトリックス選択などの前処理条件検討やその再現性の確認であり、データ取得スピードの向上によりその作業効率を大幅に向上することができる。またMALDI-MSIにおいてはピクセルのサイズを20-50umに設定することが多いが、最大ピクセル数の拡大により数cm角の試料であれば同一測定でのデータ取得が可能となった。Fig. 2にマウス脳切片をMALDI-MSI測定した結果からの平均マススペクトル全体および m/z 850付近の拡大図をしめした。m/z 848に観測された2本のピークはそれぞれPC (38:4)[M+K]+(m/z 848.557) とGalactosyl ceramide(C24h:1)[M+K]+(m/z 848.638) と推定され、Fig. 3にそのマスイメージを示す。この2つの脂質は0.1u程度の質量差であり、SpiralTOF™-plusで質量分離してマスイメージを作成すると異なる局在をもつことが分かる。リフレクトロン型TOFMSではこの2本のピークの分離は難しく、適切な化合物情報や局在情報をえることができない。測定領域の大きさは10.46×6.06 mm、上段のマスイメージのピクセルサイズは20μm、ピクセル数は158,000点であり高空間分解能での分析が可能となっている。Fig. 3中段、下段は3×3、5×5でピクセルビニングを行い、擬似的にピクセルサイズを60umと100umにしたマスイメージである。それぞれのピクセル数は、17,000点、6,000点である。このピクセル数のデータを実際に取得した場合にかかる時間はそれぞれ1時間、30分程度と予測される。マスイメージは多少不鮮明になるもののFig. 3中段、下段の空間分解能でも前処理条件検討や再現性確認の実験に問題がなく、より効率的な実験が可能である。

Schematic of SpiralTOF(TM)-plus (a) and spiral ion optical system(b).

Fig. 1 Schematic of SpiralTOF™-plus (a) and spiral ion optical system(b).

Average mass spectrum of lipids on brain tissue section.

Fig. 2 Average mass spectrum of lipids on brain tissue section.

Schematic of SpiralTOF(TM)-plus (a) and spiral ion optical system(b).

Fig. 3 Mass images of PC (38:4) [M+K]+. (m/z 848.557) and Galactosyl ceramide (C24h:1) [M+K]+ (m/z 848.638) with different pixel sizes. The 60µm and 100μm images were made by 3×3 and 5×5 pixel binning of 20µm pixel size images.

まとめ

SpiralTOF™-plusは、高質量分解能という特長はそのままにMALDI-MSIの機能強化を行った。データ取得スピード向上と最大ピクセル数の拡大により、MALDI-MSIを用いた研究がより効率的に行えるようなった。

参考文献

謝辞

本報告で使用した試料は、大阪大学大学院工学研究科 粟津研究室より提供いただきました。

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