MALDI Application: JMS-S3000 "SpiralTOF™-plus"を用いた合成高分子のイメージング質量分析~ケンドリックマスディフェクト法と組み合わせて~

  • 概要

MSTips No.306

マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析計(MALDI-TOFMS)は、合成高分子分析において強力なツールである。MALDIはおもに1価イオンを生成するために、マススペクトルの横軸(m/z)が合成高分子由来イオンの質量となる。高質量分解能MALDI-TOFMSを使えば、モノマーや末端基組成の差異による合成高分子のシリーズの識別が容易に可能となり、それぞれの分子量分布を算出することができる。合成高分子の分子量分布は一般的に数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、多分散度(D)といった指標で数値化することができる。最近ではMALDI-TOFMSを用いたイメージング質量分析(MALDI-MSI)により試料表面の目的化合物の局在を可視化することができる。合成高分子は分子量分布をもつことがMALDI-MSIのデータ解析する上の課題の1つであったが、既報MSTips No.305[1]ではMALDI-MSIにおける合成高分子の新しい可視化方法として、Mn, Mw, Dを指標としたイメージを作成することを提案した。本報告ではその手法を有効に活用するために、合成高分子のシリーズの特定方法としてケンドリックマスディフェクト(KMD)法と組み合わせた事例を紹介する。

実験

合成高分子の可視化方法を検証するためにポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレングリコールモノラウリルエーテル(PEG-C12H25)、ポリプロピレングリコール(PPG)を用いてモデルサンプルを作成した。使用した試薬はTable 1に示す。
左スポットに PEG, PEG-C12H25, α-CHCA, NaTFA 1/0.1/10/1 (v/v/v/v)の混合溶液を、右スポットにPEG, PPG, α-CHCA, NaTFAの1/0.1/10/1 (v/v/v/v)の混合溶液をスポットした。MALDI-MSI測定は、JMS-S3000のSpiralTOF 正イオンモードで測定を行った。ピクセルサイズは40µmとし、各ピクセルでのレーザー照射回数は50回とした。合成高分子の可視化はmsMicroImager™を用い、KMD解析はmsRepeatFinderを用いて行った。

Samples

Polyethylene glycol(PEG) Mw2000
Polyethylene glycol monododecyl ether (PEG-C12H25)
Polypropylene glycol(PPG) Mw 2000
1mg/mL (in MeOH)
Matrix α-CHCA 10mg/mL (in MeOH)
Cationization NaTFA 1mg/mL (in MeOH)

Table 1 Samples, matrix and cationization agent.

Schematic of the model sample.
Fig. 1 Schematic of the model sample.

結果

Fig.2Aに測定領域全体の平均マススペクトルを示す。m/z 2000を中心に観測されているシリーズは、PEG [HO(C2H4O)nH +Na+ ]であり、m/z 1300を中心に観測されている合成高分子のシリーズは、PEG-C12H25 [HO(C2H4O)nC12H25 +Na+ ]である。しかしながらPPGのピーク群は非常に小さくマススペクトルから容易に探すことができなかった。次にFig. 2Aのマススペクトルからピークリストを作成し、KMDプロット(Base unit C2H4O)を作成した(Fig. 2B)。PEGおよび PEG-C12H25は、Base unitで指定したモノマーで構成されるため横軸に平行なシリーズとして観測された。また分子量2000付近に微量であるが斜めのシリーズが観測され、これはPPG [HO(C3H6O)nH +Na+ ]であった。PPGはPEGと混合したことによりイオンサプレッションの影響でイオン強度が低くなったと推測されるが、KMDプロットはこのように微量な合成高分子でも容易に発見することができる。3つの合成高分子シリーズのピークリストを、msRepeatFinderのグループ化機能を用いて抽出した。3つのシリーズに含まれるピークの総数は370であった。このピークリストを用いてMSTips No.305で報告した合成高分子可視化手法にて、PEG, PEG-C12H25, PPGのMnおよびDのイメージを算出した結果をFig. 3に示す。PEGは両方のスポットに、PEG-C12H25は左のスポットのみ、PPGは右スポットのみに存在することがわかる。MnのイメージからはPEGおよびPPGのMnは2000程度であり、PEG-C12H25のMn は1300程度であることがわかる。またDのイメージからは3種類ともに1.010~1.015と大きな差がないこともわかる。

測定領域全体の平均マススペクトル

Fig. 2 (A) Averaged mass spectrum. Two polymer series with repeat unit of 44 u (C2H4O) was observed. (B) KMD plot (based on C2H4O) of entire peak list from averaged mass spectrum. The polymer series of PEG and PEG-C12H25 were observed as line horizontal to X axis. Also the series of PPG which was difficult to find in the mass spectrum was clearly observed.

Images of Mn and D for PEG, PEG-C12H25 and PPG polymer series.
Fig. 3 Images of Mn and D for PEG, PEG-C12H25 and PPG polymer series.

まとめ

本報告では、MALDI-MSIにおける合成高分子の可視化方法について、複数の合成高分子シリーズの混合試料へ適用する場合にKMD法と組み合わせることの利点を紹介した。KMDプロット上では合成高分子シリーズが1直線になるため可視化しやすいことや、マススペクトルからは判別が難しい微量な合成高分子の探索も容易になることが特徴である。

参考文献

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