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JMS-S3000 "SpiralTOF™-plus"を用いた負イオンモードでのアニオン系界面活性剤の検出および構造解析 [MALDI Application]

MSTips No.333

マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析計 (MALDI-TOFMS) は、 ポリマーの分析において強力なツールである。MALDIはおもに1価イオンを生成するために、マススペクトル上のm/zはポリマーイオンの質量となる。高質量分解能MALDI-TOFMSを使用すれば、繰り返し単位や末端基の組成の違いによるポリマーシリーズの識別が容易に可能となり、またそれぞれの分子量分布を算出することができる。
最近では、ケンドリックマスディフェクト (KMD) 法を用いることで、複雑な高質量分解能マススペクトルに含まれるポリマーシリーズを容易に可視化することができるようになった。
また、TOF-TOFオプションを用いれば、高エネルギー衝突誘起解離 (HE-CID) により生成したプロダクトイオンからポリマーの構造解析の可能である。MALDI-TOFMSでのポリマー分析では、サンプル溶液、マトリックス溶液、カチオン化剤溶液を混合し、ターゲットプレートに滴下風乾させ測定する。一般的にはカチオン化剤由来の付加イオン (例:トリフルオロ酢酸ナトリウムを用いた[M+Na]+) を分析するため、正イオンモードでの測定が多い。しかし硫酸基やリン酸基を末端基にもつポリマーは負イオンで検出することができる。本報告では、アニオン系界面活活性剤を含む、洗剤の分析を試みたので報告する。

実験

サンプルにはアルキルエーテル硫酸エステル塩 (AES) とポリオキシエチレンアルキルエーテル (POEAE) を含む洗剤をメタノールで100倍希釈したものを使用した。マトリックスには、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸 (CHCA) の飽和メタノール溶液、カチオン化剤にはトリフルオロ酢酸ナトリウム (NaTFA) の1mg/mL テトラヒドロフラン溶液を用いた。正イオンモードの測定の場合、NaTFAのみを滴下風乾させた後、サンプル溶液とマトリックス溶液を1:1(v/v)で混合した溶液を滴下乾燥させた。また負イオンモードの測定では、サンプル溶液とマトリックス溶液を1:5(v/v)で混合した溶液を滴下乾燥させた。マススペクトルの取得にはJMS-S3000のSpiralTOF 正/負イオンモードを、プロダクトイオンスペクトル取得にはTOF-TOF負イオンモードを用いた。KMD解析にはmsRepeatFinderを用いた。

結果

正イオンモードの測定結果

Fig. 1に正イオンモードの (a) マススペクトルおよび (b) KMDプロット (Base unit C2H4O) を示す。Fig 1aのマススペクトルには多くの成分が観測されていることが分かる。
m/z 575付近を拡大すると0.13u差のピーク群が分離して確認できた。組成指定の結果、赤矢印はPOEAE、緑矢印はAESと推定された。なお、AESは組成推定の結果、RO-(EO)n-SO3Na+Na+(R=C12H25、C14H29、EOはエチレンオキシド)という形でイオン化していることが分かった。
Fig. 1bにFig. 1aのマススペクトルをKMDプロットで可視化すると大きく分けて2つのシリーズを可視化できた。赤色のグループはPOEAEであり、緑色のグループはAESである。KMDプロットでは、質量欠損の大きい元素を含むポリマーシリーズがプロット上の上方にプロットされる。ここでは末端基に硫酸塩(SO3Na)を含むAESが上方にプロットされた。このようにKMDプロットは、ポリマーシリーズの可視化できることはもちろんのこと、末端基に含まれる元素組成が大きく異なる場合はKMD値の差が大きくなる異なるためサンプル中のポリマー成分の把握が容易である。

Fig. 1 Positive ion mass spectrum (a) and KMD plot (b) of detergent containing AES and POEAE.

Fig. 1 Positive ion mass spectrum (a) and KMD plot (b) of detergent containing AES and POEAE.

負イオンモードの測定結果

次にFig. 2に負イオンモードの (a) マススペクトルおよび (b) KMDプロット (Base unit C2H4O)を示す。負イオンモードでは、マススペクトルは2つの系統のポリマーシリーズのみが観測された。組成推定の結果、RO-(EO)n-SO3- (R=C12H25、C14H29、EOはエチレンオキシド) と推定された。このように負イオンモードで測定するとAESが選択的に観測できることが分かった。また両シリーズのm/z 777.5、793.5を選択し、TOF-TOFによりプロダクトイオンスペクトルを取得した。プロダクトイオンスペクトルには、m/z 80、97にイオンが観測されており、これらはSO3-およびSO4H-に相当し末端基が硫酸基であることを示唆する。 また、198および170のニュートラルロスが観測されており、これはC14H30、C12H26に相当することから他方の末端基がアルキル鎖であることも示唆する。

Fig. 2 Negative ion mass spectrum (a) and KMD plot (b) of detergent containing AES and POEAE.

Fig. 2 Negative ion mass spectrum (a) and KMD plot (b) of detergent containing AES and POEAE.

Fig. 3 Negative ion product ion mass spectra of two types of  AESs.

Fig. 3 Negative ion product ion mass spectra of two types of AESs.

まとめ

AESは、正イオンモードではRO-(EO)n-SO3Na+Na+という形で観測されやすいことが分かった。
今回のようにPOEAEが同時に含まれる場合、正イオンモードでは両方ともイオン化されることからマススペクトルが複雑になる。一方で負イオンモードで測定を行うと、AESが選択的にイオン化されることが分かった。またTOF-TOFによる末端基解析も可能であった。このようにAESなどアニオン系界面活性剤が含まれる場合は負イオンモードで分析することでその存在確認や構造解析を行うことができることが分かった。

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