GC-TOFMS Application: msFineAnalysis Ver3を用いた材料評価事例-2検体比較分析による材料中混入物質の迅速探索と解析-

  • 概要

MSTips No.330

はじめに

昨今、高分子材料は複雑化・多様化しており、その化学組成はブラックボックス化している。そのため、高分子材料を購入し取扱う使用者自身が材料そのものの化学組成や特性等を把握しておくことは、それら高分子材料を組み入れた自社の製品に及ぼす影響把握という観点からも今後ますます重要になってくると考えられる。材料選定においては従来材料/代替材料、新製品/旧製品といった2検体比較分析が有効である。
GC-MSは高分子材料中の揮発性化合物の定性/定量分析装置として、幅広く活用されている。定性分析ではライブラリデータベース検索が有効だが、データベース未登録成分の定性に課題がある。データベース検索に依存しない定性分析法として、EI法とソフトイオン化法精密質量スペクトルを組み合わせた"統合解析"を開発し、msFineAnalysisを2018年に上市した。
このたびリテンションインデックスによるライブラリ検索結果の絞り込みと、t検定を用いた差異分析機能を搭載したmsFineAnalysis Ver.3を開発した。今回msFineAnalysis Ver.3を用いた材料評価事例として、ポリプロピレン/ポリエチレン(PP/PE)共重合ポリマー中混入物質の迅速探索及び解析した事例について報告する。

解析フロー

Fig.1に今回開発した差異分析と統合解析を組み合わせた解析フローを示す。本手法では、始めに差異を検討したい2検体で取得したEI法データを用いた差異分析が実施される。EIデータで検出されたクロマトグラムピークのRT値と、EIマススペクトルの類似度に基づきアライメント(同一性判定)が行われる。アライメント作業により抽出された化合物に対し、出現数、2検体データ間の平均面積値の強度比、そしてt検定により求められたp値を元に、検出化合物を分類する。
化合物を分類した後、EIデータとソフトイオン化データにおいて観測された各ピークは保持時間情報に基づき紐づけられ(ピークのリンク)、1成分として記録される。その後の解析フローは既報MSTips(275など)で報告している統合解析が実行され、ライブラリー登録成分のみならず未登録成分に対しても自動で定性解析が実行される。

Fig.1 msFineAnalysis Ver.3 workflow for the variance component analysis

Fig.1 msFineAnalysis Ver.3 workflow for the variance component analysis

実験

試料は良品・不良品2つのPP/PE共重合ポリマーを用い、EI法では0.2mg、FI法では1.0mgとした。試料前処理装置として熱分解装置を使用し、熱分解生成物分析を実施した。イオン源はEI/FI共用イオン源を用いた。得られたデータをmsFineAnalysis(日本電子社製)にて解析し、2種類のPP/PE共重合ポリマーにおける差異成分の抽出と同定を試みた。測定条件をTable1に示す。

Table 1. Measurement and analysis conditions

Pyrolysis conditions
Pyrolyzer EGA/PY-3030D(Frontier Lab)
Pyrolysis Temperature 600°C
GC conditions
Gas Chromatograph 7890A GC
(Agilent Technologies)
Column ZB-5MSi (Phenomenex)
30m x 0.25mm, 0.25μm
Oven Temperature 40°C(2min)-10°C/min
-340°C(28min)
Injection Mode Split mode (100:1)
Carrier flow He:1.0mL/min
MS conditions
Spectrometer JMS-T200GC (JEOL Ltd.)
Ion Source EI/FI combination ion source
Ionization EI+:70eV, 300μA
FI+:-10kV, 40mA/30msec
Mass Range m/z 29-800
Data processing condition
Software msFineAnalysis (JEOL Ltd.)
Library database NIST17
Tolerance ±5mDa

結果

測定回数n=5における差異分析を実施したところ、不良品(サンプルB)に特徴的な5つの成分が抽出された。msFineAnalysis Ver.3では差異成分を迅速に見つけ解析するために、2サンプル間における強度比(Log2(B/A))を横軸に、統計的再現性(-Log10(p-value))を縦軸に採用したボルケーノプロットを描画する。Fig.2はボルケーノプロットの詳細解析画面であるが、ボルケーノプロットの青枠で囲んだ領域がサンプルAに特徴的で再現性の高い成分、赤枠で囲んだ領域がサンプルBに特徴的で再現性の高い成分である。ボルケーノプロット上のプロットを選択することで該当成分のマススペクトル、統合解析結果、そしてサンプルA及びサンプルBで得られた面積値を俯瞰することが可能である。

Fig.2 Volcano plot of variance component analysis result

Fig.2 Volcano plot of variance component analysis result

次にこれら5成分の統合解析結果をTable2に示す。アクリロニトリル(ID003)とスチレン(ID008)が強い強度で検出されており、不良品(サンプルB)に混入した物質はアクリロニトリル/スチレン(AS)共重合ポリマーの可能性が示唆された。

Table 2. Integrated qualitative analysis result for the characteristic components of sample B

Table 2 Integrated qualitative analysis result for the characteristic components of sample B

ID018、26、30はいずれも含窒素化合物であった。ID018はAS共重合ポリマーのダイマー類縁の熱分解生成物と考えられた。ID026とID030はライブラリーデータベース未登録成分であったが、統合解析の結果から以下に示す混成トライマーであると推測された。このことから、不良品(サンプルB)に混入した物質はAS共重合ポリマーであることが強く示唆された。

Fig.3 Estimated chemical structures: left: ID026 (C14H14N2), right: ID030 (C19H19N)

Fig.3 Estimated chemical structures: left: ID026 (C14H14N2), right: ID030 (C19H19N)

従来の2検体比較では、差異を抽出した後の定性解析はライブラリーデータベース検索に依存しており、抽出した差異成分がライブラリーデータベース未登録成分だった場合、その同定は困難であった。今回開発したmsFineAnalysis Ver.3では、差異を抽出した後にはライブラリーデータベース検索に依存しない統合解析が実施されるため、差異成分に対する定性解析、同定作業が可能である。
msFineAnalysis Ver.3は材料分析において強力なツールとなることが期待される。

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