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HS GC-QMSおよび統合定性解析手法による水質汚染物質識別の迅速化 ~河川への流出事故を想定した軽油・灯油分析~ [GC-QMS Application]

MSTips No. 360

はじめに

全国の一級河川水系における油類や化学物質の流出等による水質事故については、近年増加傾向にある。水道水源で流出事故が発生した場合、汚染源を特定し流出防止および浄化対策が実施されるため汚染物質とその種別を迅速に識別する必要がある。この分析手法の一つであるGC-QMS法では、溶媒抽出による前処理を行い、クロマトグラムのパターンおよび特定成分の定量などから識別している。そこで、今回、前処理が不要なヘッドスペース法と我々が開発したGC-QMSで得られる整数質量データに対応した統合定性解析ソフトウェアを用いて流出事故を想定した軽油・灯油水溶液の迅速な識別を試みた。その結果、軽油・灯油の特徴的な成分の違いを可視化および識別することができたので報告する。

実験

測定にはトラップ型ヘッドスペース装置MS-62071STRAPと、GC-QMS装置JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zetaを用いた。イオン化法はEI法およびソフトイオン化法として光イオン化 (PI) 法を用いた。全ての解析には統合定性解析ソフトウェアmsFineAnalysis iQを用いた。測定試料として、精製水に市販の軽油・灯油を添加した希釈水溶液 (100,000倍) 10 mLをヘッドスペースバイアルに各々封入した。これを80°Cで30分間加熱した際の気相ガス成分についてEI法 (n=5) とPI法 (n=1) で測定した。HS GC-QMS測定の詳細条件をTable 1に示す。この測定データを用いて2検体比較 (差異分析) を試みた。
尚、差異分析の機能についてはMSTips No.348を参照のこと。

JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta w/ MS-62071STRAP

Table 1 Measurement Condition

HS
Sample temp. 80°C
Heating time 30 min
Sampling mode Trap
Number of sampling 1
Trap tube AQUATRAP1
(GL Sciences Inc.)
GC
Column HP-5 (Agilent Technologies)
30 m × 0.32 mm id, 0.25 μm
film thickness
Oven temp. 50°C (3 min) → 5°C / min → 300°C (5 min)
Carrier gas 2 mL / min (Constant Flow)
Injection temp. 250°C
Injection mode Split 50:1
MS
Interface temp. 300°C
Ion source temp. 250°C
Acquisition mode Scan (m/z 29-600)
Ionization EI (70 eV, 50 μA)
PI (10.78 eV)

測定結果

差異分析結果 (ボルケーノプロット) をFigure 1に示す。軽油 (A)・灯油 (B) の特徴的な成分が可視化できることがわかった。これにより灯油の方が軽油よりも成分数が多いこと、また各成分量の違いも一目で確認できた。次に、ボルケーノプロットに表示された特徴的な成分の統合解析結果と、一例として灯油化合物ID: 104, ID: 112, ID: 248の詳細を説明する。

Figure 1

Figure 1 Volcano plot of variance component analysis result

msFineAnalysis iQを用いた統合解析結果をTable 2に示す。軽油 (A) の特徴的な成分としてペンタデカン、ヘキサデカン、へプタデカン、オクタデカンの直鎖飽和炭化水素類、灯油 (B) の特徴的な成分としてノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンの直鎖飽和炭化水素類と芳香族炭化水素の一種であるメシチレン、ナフタレンを推定することができた。

Table 2 Integrated qualitative analysis result using the msFineAnalysis iQ

Table 2

ID: 104のマススペクトルをFigure 2に示す。EI法、PI法のどちらのマススペクトル上においても分子イオンと推定されるm/z 120のイオンを検出することができ、PI法では分子イオンがベースピークとなるマススペクトルが得られた。ライブラリーDBとの類似度962と分子イオンの確認により芳香族炭化水素の一種である「Mesitylene」と推定された。
ID: 112のマススペクトルをFigure 3に示す。EI法、PI法のどちらのマススペクトル上においても分子イオンと推定されるm/z 142のイオンを検出することができ、PI法では分子イオンがベースピークとなるマススペクトルが得られた。ライブラリーDBとの類似度957と分子イオンの確認、リテンションインデックス定性機能により直鎖飽和炭化水素の「Decane」であると推定された。
ID: 248のマススペクトルをFigure 4に示す。EI法、PI法のどちらのマススペクトル上においても分子イオンと推定されるm/z 128のイオンを検出することができ、PI法では分子イオンがベースピークとなるマススペクトルが得られた。ライブラリーDBとの類似度906と分子イオンの確認によりベンゼノイド多環芳香族炭化水素 (PAH) の一種である 「Naphthalene」と推定された。
以上のように、含有量が異なる多種・多数の混合物サンプルにおいて、msFineAnalysis iQの差異分析機能により容易に違いを見つけることが可能であった。また、それぞれのサンプルにおける特徴的な成分についても、ライブラリデータベース検索結果に分子イオン確認結果とリテンションインデックス定性機能を組み合わせた統合解析により、確度高く推定することができた。

Figure 2

Figure 2 Mass spectra of ID: 104

Figure 3

Figure 3 Mass spectra of ID: 112

Figure 4

Figure 4 Mass spectra of ID: 248

まとめ

本報告では、HS GC-QMSおよび統合定性解析手法による水質汚染物質の識別例について紹介した。前処理が不要なヘッドスペース法による特徴的な成分の検出と新規に開発したmsFineAnalysis iQの統合解析 (差異分析機能) により、軽油・灯油の2検体比較と多種・多数の定性を容易に行うことができた。本手法を用いることで、定性解析精度の向上、作業時間の短縮、作業効率の向上が実現でき水質汚染物質の迅速な識別に有効といえる。

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