MALDI-TOFMS Application: JMS-S3000 "SpiralTOF™"を用いた高質量分解能マスイメージングと統計手法によるデータ解析

  • 概要

MSTips No. 370

マトリックス支援レーザー脱離イオン化 (MALDI) を用いたイメージング質量分析法 (MSI) は、サンプル表面の有機化合物の分布を可視化する手法である。主に凍結組織切片表面のタンパク質・ペプチド・脂質・薬剤とその代謝物などを中心にアプリケーションを拡大している。MALDI-MSIは、レーザー照射位置をサンプル表面上で二次元に走査し、各レーザー照射位置においてマススペクトルを取得する。この二次元の位置情報を持つマススペクトル群を解析することで、サンプル表面の任意の分子量をもつ有機化合物の分布を、抽出マスイメージとして描画できる。
JMS-S3000 SpiralTOF™ は、特許技術であるらせん軌道イオン光学系をもつ飛行時間質量分析計 (TOFMS) であり、一般的なリフレクトロンTOFMS より長い17mの飛行距離を有しているため、試料の表面状態が均一でないことも多い MSI においても高い質量分解能を実現できる。加えてイオン光学系が扇形電場で構成されており、ポストソース分解 (PSD) イオンの除去も可能で、ベースライン付近の微量成分も高い質量分解能で分離が可能なことも特徴である。そのため MALDI-MSI においても同じ整数質量をもち小数点以下の値が異なる化合物(同重体)を分離し、明瞭な化合物の分布を描画することができる。本報告では、生体試料中に多種多様に存在する脂質の高質量分解能 MALDI-MSI データを統計手法で解析したので報告する。

測定条件

サンプルにはマウス脳凍結組織切片を用いた。マトリックスは DHB であり、エアブラシでスプレーで DHB 溶液を噴霧した。マスイメージングデータは、SpiralTOFモード(正イオンモード)、ピクセルサイズ40umで取得した。

測定結果

MALDI-MSI で得られた平均マススペクトルを Figure 1 に示す。なお、以下 PC はフォスファチジルコリン、PE はフォスファチジルエタノールアミン、GalCer はガラクトシルセラミドである。Figure 1a にはイオン強度が高い PC (32:0) , PC (34:1) の2つのピークのマスイメージもあわせて示した。一方で平均マススペクトルを見てわかるように、観測されたピークの大部分の強度はベースピークの10%以下である。Figure 1b に m/z 820~823 の拡大図を示した。拡大図中のピークは0.1u 程度の差のピークが1u 毎に観測されている。これらは、PE (36:2), PC (36:4), PE (36:1), GalCer (d18:1/22:0) に由来するピークであり、凍結組織切片中の局在も異なる。このように高質量分解能 MALDI-MSI を用いれば、わずかな質量差の化合物を分離し、正確な局在情報を得ることが可能である。

Figure 1 Averaged mass spectrum and extracted mass images of PCs, PEs and GalCer.

Figure 1 Averaged mass spectrum and extracted mass images of PCs, PEs and GalCer.

MALDI-MSI データの統計解析

多数のピークが存在するマスイメージングデータの解析では、全体像をとらえるために統計解析も有効である。統計解析には、SCiLS Lab MVS, Version 2020b Premium3D を用いた。このソフトウェアには、SpiralTOF™ で得られたマスイメージングデータを imzML 形式に変換後インポートした。まず、Figure 2 には PLSA (Probabilistic latent semantic analysis) 解析の結果を示す。Componet 1~3 をみるとマスイメージングデータの中で特徴的な局在情報が得られることが分かる。このように高質量分解能 MALDI-MSI データのピクセルごとのマススペクトルパターンの特徴を捉え、特徴的な部位を見出すことが可能である。次に Figure 3 には、Segmentation 解析の結果を示す。Segmentation 解析では、統計手法により特徴的な部位を色分けすることができる。また色分けした部位ごとにマススペクトルの作成が可能であり、部位ごとの特徴的な成分を探索しやすくなる。

Figure 2  pLSA analysis of the high mass-resolution MALDI-MSI data

Figure 2 pLSA analysis of the high mass-resolution MALDI-MSI data

Figure 3 Segmentation of the high mass-resolution MALDI-MSI data

Figure 3 Segmentation of the high mass-resolution MALDI-MSI data

まとめ

SpiralTOF™ は、高い質量分解能と PSD イオンの除去により低分子量域においても、微量成分の高質量分解能を実現することができる。この特徴は、MALDI-MSI でも有効である。また凍結組織切片中の脂質分析のように多数のピークが観測されるアプリケーションの場合、高質量分解能 MALDI-MSI と統計手法を組み合わせることでより効率的な解析が可能になる。

本分析は、大阪大学大学院理学研究科附属基礎理学プロジェクト研究センター先端質量分析学研究グループとの共同研究の成果です。
組織切片は、大阪大学大学院工学研究科環境・エネルギー工学専攻 粟津研究室より提供いただきました。

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