JMS-S3000 SpiralTOF™-plus 3.0
マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析計
特長
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JEOL独自のSpiralTOFイオン光学系を採用した超高質量分解能・高感度MALDI-TOFMSシステムです。
JMS-S3000はSpiralTOFモードでの測定質量範囲を拡大し、SpiralTOF™-plus 3.0へと進化しました。従来装置とは一線を画する特長で、分析技術の最先端をリードし、合成高分子・材料科学・生体高分子などの幅広い分野で日々変化していく研究ニーズにお応えします。
常識の限界に挑戦したSpiralTOFイオン光学系
飛行時間質量分析計の質量分解能・質量精度を向上させるためには、同じ質量をもつイオン群 (イオンパケット) を広げることなく、「限られた空間内」で「飛行距離を延長」することが必要です。
マルチターン型TOFMSの基本原理である"Perfect focusing"と"Multi-turn"の原理を、JEOL独自の技術で発展させたSpiralTOFイオン光学系により、限られた空間内に17 mのらせん状のイオン軌道を実現しました。イオンパケットは、らせん軌道の1階層毎に収束されるため、高い質量分解能・質量精度と同時に高いイオン透過率も実現しています。
ペプチド標準品混合物の質量分解能 (10回の実測値の平均)
マトリックス結晶の凹凸の影響を低減
マトリックス結晶の凹凸は、飛行開始位置の違いとなり、結果として飛行時間差となります。SpiralTOF™-plus 3.0では、飛行距離の延長により、この影響を最小限に抑え、質量分解能が安定するとともに、外部標準法による高い質量精度を実現しました。また生体切片試料のマスイメージングのように、面積が広く、かつ不均一な試料表面の測定においても、高い質量分解能と質量精度が維持されます。
広いダイナミックレンジの実現
SpiralTOF™-plus 3.0では、信号処理に14-bit ADC (アナログ-デジタル変換器) を採用し、広いダイナミックレンジを実現しました。これにより、4桁程度のイオン強度差があるピークも同時に検出することが可能となりました。また、通常の溶液測定のみならずマスイメージング測定においても微量成分の分析が容易となりました。下記は、ポリエチレンオキシドとプロピレンオキシドを1,000:1で混合した試料の測定例です。ポリマー分析の場合はケンドリックマスディフェクト (KMD) 解析と組み合わせることで、発見が困難な微量成分の分析も可能となります。
ポリエチレンオキシドとポリプロピレンオキシド 1,000:1 の混合物のマススペクトル
SpiralTOF™-plus 3.0は広いダイナミックレンジを実現し、微量成分の分子量分布を算出することができます。
KMD プロット (Base unit EO)
分子量分布の計算値
強度の合計(%) | 数平均分子量 | 重量平均分子量 | 多分散度 | |
---|---|---|---|---|
① | 89.83 | 1460.80 | 1492.87 | 1.0220 |
② | 10.00 | 1480.46 | 1515.30 | 1.0235 |
③ | 0.17 | 2112.30 | 2132.53 | 1.0096 |
Spiral モードの測定質量範囲拡大
SpiralTOF™-plus 3.0 では Spiral モードの測定質量範囲が m/z 50,000 までに拡大されました。高分子量ポリマーなどの、より高精度な分析が可能となりました。
Poly(styrene) (PS) 10 kDa, 20 kDa, 40 kDa 混合物の Spiral モード・正イオンマススペクトル
TOF/TOF オプションとリニアTOFオプションの特長と用途
TOF/TOF オプション
特長
第一MSにSpiralTOFイオン光学系を採用することで高いプリカーサーイオン選択能を実現し、プリカーサーイオンのモノアイソトピックピークを適切に選択可能です。
高エネルギー衝突誘起解離 (HE-CID) により構造情報を豊富に含んだプロダクトイオンマススペクトルを得ることが可能です。
JEOLの特許技術であるオフセットパラボリックリフレクトロン * により、m/z 5からプリカーサーイオンまで、すべてのプロダクトイオン情報を取得し、信頼性の高い構造情報を得ることが可能です。
用途
有機化合物の構造解析において、HE-CIDによる構造情報に加え、イオン種 (付加イオン) を決定することで Spiralモードの精密質量による組成推定の確度向上が可能です。
ペプチドのアミノ酸配列解析では、HE-CIDの特長としてロイシン・イソロイシンなど構造異性体の識別が可能です。またインモニウムイオンの確認によりペプチドを構成するアミノ酸の確認も可能です。
添加剤、界面活性剤、脂質などの分析では、構成要素であるアルキル鎖の構造解析が重要です。HE-CIDではアルキル鎖長および二重結合の位置が推定可能です。
ポリマーの構造解析では、プロダクトイオンマススペクトルからイオン種 (付加イオン) や末端基の質量を確認できます。Spiralモードの組成推定結果と総合して構造推定の確度向上が可能です。
Poly(oxypropylene) のプロダクトイオンマススペクトル
SpiralTOF™-plus 3.0ではモノアイソトピックイオンのみが選択可能なため、2 u差の2つのプロダクトイオンが同位体イオンでは無く、異なった構造を持ったものであることが明白となります。
リニアTOFオプション
特長
リニアTOF オプションでは、イオンはイオン源から直線的に飛行・検出されます。
イオンが飛行中にポストソース分解 (PSD) を起こした場合、生成したイオンや中性粒子は開裂前と同じ速度で飛行・検出されるため、 Linearモードのマススペクトル上ではPSDイオンは開裂前のイオンと同じ信号として検出されます。そのため、LinearモードのマススペクトルはPSD を起こし易い高質量なサンプルを高感度で測定可能です。
Spiral モードとLinear モードにより、測定できるターゲットの幅がさらに広がります。
用途
ポリマーの分子量分布のスクリーニングに威力を発揮します。
質量が数千から数万と広い分布を持つポリマー試料の分子量分布・多分散度などの計算が可能です。
インタクトなタンパク質など、分子量1万以上の高質量サンプルの高感度測定が可能です。
タンパク質、糖鎖などのPSDを起こしやすいサンプルの高感度測定が可能です。
Poly (styrene) 40 K, 100 K, および 200 Kのマススペクトル
ポリマー解析を得意とするSpiralTOF™-plus 3.0
末端基が異なるポリマーの混合物や共重合ポリマーには多様な化合物が含まれ、キャラクターの把握にはそれぞれの化合物の検出が必要ですが、それには幅広い質量範囲における超高質量分解能が求められます。また高機能化のために複数種のポリマーや微量添加剤のブレンドが行われるために、基材のみならず微量成分の検出も重要となります。
広範囲での超高質量分解能、広いダイナミックレンジを有するSpiralTOF™-plus 3.0はこれらの要件を満たすソリューションとなります。SpiralTOF光学系の大きな特長であるポストソース由来イオン排除も明瞭なマススペクトル解析に大きく寄与しています。
高機能化やリサイクルによって近年ますます複雑化するポリマー分析に最も有効かつ唯一のソリューションを提供します。
ポリメタクリル酸メチル (PMMA) のマススペクトル (m/z 2,000-9,000)
SpiralTOF™-plus 3.0 はポリマー分析に必要な広い質量範囲での高質量分解能を達成します。
msRepeatFinder ポリマー解析用ソフトウェア (オプション)
複雑なスペクトルについてKendrick Mass Defect (KMD) プロットとKendrick Mass Remainder (KMR) プロットを駆使して含まれるポリマー種や末端基を推定し、ポリマーの正体を明らかにします。さらに2検体間の差異解析も可能であるため、試料の劣化、ロット間差、合成過程の違いの検証に威力を発揮します。
進化したマスイメージング解析
マスイメージングは、当初タンパク質、ペプチドなど高分子量の化合物を対象に技術開発が進みました。しかしアプリケーションが拡大するにつれ、脂質、薬剤、代謝物など低分子化合物の分析が主流となっています。従来のリフレクトロンMALDI-TOFMSは、マトリックス由来のピークが観測されてしまう低分子量域の測定は不得意とされてきました。マスイメージングではそれに加えて、試料表面の夾雑物成分も観測されるため、目的化合物の観測を妨げる要因が増えます。そのため、低分子領域であっても高い質量分解能で、選択性の高い局在情報を取得することが大変重要です。また、試料の面積が広く、かつ不均一な試料表面の測定においても、高い質量分解能と質量精度を長時間維持することが重要です。
超高質量分解能を有し、また長い飛行距離によって試料表面の不均一さによる質量分解能低下を最小に抑えるSpiralTOF™-plus 3.0は、イメージングの要件を満たす高性能のMALDI-TOFMSです。さらに、高速マスイメージング解析にも対応しています。
AI (機械学習) によるノイズフィルター FINE-AI Filter
マスイメージングデータ処理ソフトウェア msMicroImager™ version 3 (オプション) には、AI (機械学習) を用いたノイズフィルターFINE-AI Filterを新たに搭載しました。走査電子顕微鏡 (SEM) で培った LIVE-AI (Live Image Visual Enhancer-AI) の技術をマスイメー ジングデータ処理に最適化して実装することで、マスイメージの画質の大幅向上を実現しました。
高質量分解能とFINE-AI Filterを活かしたマウス脳切片中の脂質のマスイメージング
マウス脳切片中には多様な脂質が存在し、m/z 700-1,000 にかけて複雑なマススペクトルが得られます。それらピーク の大多数は、ベースピークに対して10% 以下の微量成分です。そのため脂質をターゲットとしたマスイメージングでは、 ベースライン付近において高い質量分解能が要求されます。下図に、m/z 820-823 の拡大図を載せました。0.1 u 程度 の質量差のピークが多数観測されています。SpiralTOF™-plus 3.0 の高質量分解能により、同重体イオンピークを分離し、 精密質量測定により4種類の脂質の組成推定を行いました。また、化合物固有のイメージを描くと各々が異なる局在を示 していることがわかります。従来のリフレクトロンTOFMS では、0.1 u 以下の分離が難しく、脂質の組成推定が難しい ことに加え、局在情報が混合した結果となってしまいます。 更にAIノイズフィルター FINE-AI Filter を適用することで、より質の高いマスイメージを得ることができました。
PE: Phosphatidyl ethanolamine, PC: Phosphatidyl Choline, GalCer: Galactosylceramide
本分析は、大阪大学大学院理学研究科附属基礎理学プロジェクト研究センター先端質量分析学研究グループとの共同研究の成果です。組織切片は、大阪大学大学院工学研究科環境エネルギー工学専攻 粟津研究室より提供いただきました。
高分子材料のマスイメージング
マスイメージングは高分子材料にも応用が可能です。ポリメタクリル酸メチル (PMMA) に酸化防止剤 (Irgafos168 (BASF社製) とIrganox1010 (BASF社製) の2種類) を混合した2つのスポットを作成し、右側のスポットのみ紫外線照射を行いマスイメージングで劣化の様子を可視化しました。ポリマーおよび添加剤の両方の量的な変化を可視化することができます。また、ポリマーについては平均分子量や多分散度の変化も捉えることが可能です。
PMMA, Irgafos168, Irganox1010 のマスイメ―ジング
JMS-S3000 SpiralTOF™-plus 3.0 マスイメージングシステム (オプション)
マスイメージング測定では、試料表面上でレーザー照射位置を走査し、マススペクトルを順次得ます。
このデータを解析することで、特定化合物の試料表面上の局在情報を可視化することができます。
タンパク質の解析
タンパク質の詳細な解析には、タンパク質そのものではなく、トリプシンなどの酵素消化を用いて分解して、生成したペプチドを分析することもできます。ペプチドマスフィンガープリント (PMF) 法を用いれば、タンパク質の同定も可能です。
牛血清アルブミン (BSA) のトリプシン消化物のマススペクトルとペプチドマスフィンガープリント法による同定結果
Amount (fmol) | Number of peptides matched/searched | Sequence coverage (%) | MASCOT score |
---|---|---|---|
50 | 52 / 81 | 75 | 570 |
10 | 41 / 79 | 64 | 390 |
5 | 36 / 77 | 54 | 351 |
1 | 28 / 57 | 43 | 255 |
0.5 | 31 / 52 | 46 | 306 |
0.1 | 18 | 12 / 34 | 92 |
3D-structure of RCSB PDB (www.rcsb.org) ID 1IGY (Harris, L.J., et al. (1998) J.Mol.Biol. 275: 861-872) created with Protein Workshop (Moreland, et al. (2005) BMC Bioinformatics 6:21).
低分子化合物の解析
SpiralTOF™-plus 3.0では、低分子から高分子まで精密質量測定が可能です。
低分子領域では、従来マトリックス由来のピークなどが観測されるため、MALDI-TOFMSの測定が困難とされてきましたが、SpiralTOFイオン光学系がこの問題を解決します。
総合感冒薬の測定例
Interview
高分子の姿をイメージできるようにしたい
国立研究開発法人産業技術総合研究所 機能化学研究部門 副研究部門長
佐藤 浩昭 博士
30年にわたって質量分析装置の進化に寄り添い、その性能を最大限に引き出すことで高分子の世界で起こっていることを明らかにしてきた佐藤博士。その知見をつぎ込んだ評価手法が、化学産業に新たな力を与えようとしている。
カタログダウンロード
MALDI: JMS-S3000 SpiralTOF™-plus 3.0 マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析計
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