環境分析に活躍する GC/MS

昔、ギリシアの哲学者達が“物質とは何か"を激しく議論している中から、“元素"や、“原子"の概念が生れてきました。これらの概念が科学的に証明されたのは、17世紀から19世紀になってからです。 さらに最近、耳にする機会の多いアイソトープ(同位体)という概念は、1912年にJ.J.Thomsonによって、質量20のネオン原子の他に質量22のネオン原子が存在することが発見されたことに始まります。このとき用いられた装置が、質量分析計(マススペクトロメータ:MS )で、以来この装置は原子の精密な質量を決定する唯一の手段として用いられてきました。また、1900年代後半より質量分析計にガスクロマトグラフ(GC: 混合試料を分ける装置)が結合され、混合物を高感度で分離分析する手法として、ガスクロマトグラフ質量分析計(以下GC/MSと略します)が発展し、これによりダイオキシン、水道水中の有機化合物あるいは薬の血中濃度測定、また新薬開発のための道具として、広範な分野で用いられるようになりました。

JMS-T200GC AccuTOF GCx 高性能ガスクロマトグラフ飛行時間質量分析計

あなたの未来を守る

ガスクロマトグラフ質量分析計には、宇宙探索船に載せて火星や彗星の成分を測るような装置から,蛋臼質の構造を決めるのに用いられる装置まで多くのタイプがあり、環境・生命科学の分野で広く活躍し、この装置は今後ますます発展することが期待されている分析計です。

  • 月の石の成分を、火星に生命が無いことを、現代科学はどのようにして調べたのでしょうか?
  • 南極にもPCB 汚染は広がっているのでしょうか?
  • 東京湾の水は、そこに住んでいる魚貝類は安全でしょうか?
  • 田畑に大量散布された農薬はどこへ行くのでしょうか?

科学の発展にともない、いろいろな角度からとめどもなく疑問がわいてきます。この疑問に対して、ガスクロマトグラフ質量分析計が、測定を通して明解な答えを出してくれます。

それでは、どのようにしてGC/MS が働き、答えを出してくれるのか、原理にふれながら述べ、あわせて、一つの物質が測定され判明するまでの過程を説明してみましょう。

質量分析計の原理

MSは、物質を構成している個々の化合物の質量(重さ)を正確に測定し、その重さからその化合物が何で、どれ位あるのかを調べる装置です。MSの基本原理は、イオン(電気を帯びた原子、分子)を一定の速度に加速して磁場の中を通過させてやると、そのイオンの持っている質量数(重さ)に応じて磁場の強度により軌道が曲げられるという性質を利用したものです。これは、電子が磁場を通って軌道を曲げられる性質を利用して作られたテレビのブラウン管の原理と似ています。

図 a) のように、左から同じエネルギーでイオンを加速させたとします。

磁場の強さを一定にすると、磁場の影響で質量の小さい(軽い)イオンから順に軌道が曲げられていきます。ですから到達するイオンの位置を検出する質量スペクトルを得ることによって、どのような化合物であるかがわかり(定性)、その量を知ること(定量)ができます。

実際のMS は、図 b) のようにイオンの軌道を一定にしておいて、磁場の強さを変化させることによって、各イオンの種類と量を一つの検出器で測定します。検出されたものは、質量スペクトルといわれ、通常横軸に質量電荷比(m/z)、縦軸にイオン強度(どれだけの量があるか)をとった多くのピーク群からなるグラフ( c))として示されます。

GC/MSによる実際の測定

それでは、最も環境汚染の少ない地方と思われている北欧の湖水からも、PAH(ポリアロマティックハイドロカーボン;この物質は、癌を発生させることで有名)が検出されたという例にそって、GC/MSの説明をしていきましょう。

まず現地で採取したビール瓶1本ほどの湖水から有機化合物成分を抽出します。すると、ビール瓶1本の水が、注射液アンプル1本分(5ml)位の分量に濃縮されます。一見したところ奇麗に見えた水も、抽出し、濃縮されたものは、ドロドロになって黒褐色になっています。多くの有機化合物が溶けていることが分かります。その中からわずか1μl(1/1,000,000リットル)をGC に注入します。

GC は、抽出した有機化合物(混合成分)をキャピラリーカラム〈内径0.3mm程度の細い管内表面に化合物が分離するための液層相がぬられている。目的に応じてこの液相の種類の選択が必要。)の中をヘリウムガスを使って運びながら、各成分を分離してMSへ送り込む働きをする装置です。

ここでの分離作業は極めて正確で、いかに数百種類の成分が入っていようとも、一つのミスもなく分けられてしまうのです。そしてGCによって分けられた各成分は、途中インターフェースでヘリウムガスが除かれ、MSのイオン源へと、つぎつぎと運ばれます。

イオン源では、送られてきた各成分をイオン化し(分子が電気を帯びた状態になることをいい、ここでは分子の周囲を回っていた電子が、外からの電子ではじき飛ばされて、正の電気を帯びた陽イオンとなること)イオン化された分子を加速して分析部(電場や磁場)に送る働きをします。イオン化には、電子で叩いてイオン化するEI法(電子衝撃法)の他、化学反応を用いてイオン化するCI法(化学イオン化法)、そして当社が得意とする電界をかけてイオン化するFD法(電界脱離法)、高速の原子で叩いてイオン化するFAB 法(高速原子衝撃法)などがあります。

さて、イオン化された有機化合物の各イオンは、数kV の電圧をかけられ加速されて分析部に送り込まれます。分析部では先程述べた原理により、磁場の強さに応じて、各イオンはその質量によって分離され、検出部に到達します。検出される精度(分解能)は極めて正確で、例えば人間の体重でいうと、私は56kg、あなたは80kgという程度のものでなく、56.9985kgと小数点4桁まで読み取ってしまう性能を持っています。

また、体重だけではなく、その指紋、額のしわ(質量スペクトル)まで、0.1秒という一瞬の間に読み取ってしまうのです。さらに、検出される感度(どの位少ない量で測定できるか)は、fgオーダー(fg:10-15 g )という非常に少ない量です。

これは、地球総人口の中から貴方1人を見つけ出すことより、はるかに感度が高いことになります。

こうして検出されたデータは、あらかじめコンピュータに入っているデータ(ライブラリー)と比較照合されて、瞬時のうちに測定結果としてプリントアウトされます。このようにして、北欧の湖水に混じっていたPAH一族を構成している一つ一つの成分の正体が完全に判明しました。そして、その中には、まさしく発ガン性物質であるベンツピレンがありました。