HS/GC/MSによる高分子材料製手袋からの発生ガス分析
MSTips No.215
奥田 晃史、草井 明彦
日本電子株式会社
ここで、一般に高分子材料を加熱したときにはガスが発生するため、このようなゴム製品からもガスが発生すると考えられる。そこでヘッドスペース(HS)法とガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC/MS)を組み合せたHS/GC/MSシステムを用いて、天然ゴム(2種)、ニトリルゴム、塩化ビニル樹脂製の手袋4種を50℃で加熱した時に発生するガス成分を測定し、試料間の発生ガス成分の比較および発生ガス総量の比較を行った。
測定条件
切り取った高分子材料製手袋(Fig.1)の指先部分約100mgをHSバイアルに封入し(Fig.2)、Table1およびTable2に示した条件で測定した。
![]() 【Fig.1 Glove for sample】 |
【Table1 Measurement conditions for GC/MS】![]() |
![]() 【Fig2 Samples in HS vial】 1 nytrile rubber 2 vinyl chloride resin 3 natural rubber A 4 natural rubber B |
【Table2 Measurement conditions for HS】![]() |
測定結果と考察
加熱温度50℃における各試料のTICクロマトグラムをFig.3に示す。
各TICクロマトグラムを比較したところ、試料原料に由来すると考えられる特徴的なプロファイルおよび成分が検出された。各試料での代表的な成分として、ピーク1~5のライブラリ検索による推定結果をFig.3に示した。
天然ゴム製品、ニトリルゴム製品、塩化ビニル樹脂製品を比較したとき、50℃という低温でありながら、それぞれ異なるプロファイルを示す結果であった。また、2種類の天然ゴム製品の結果を比較した場合も、天然ゴム製品Aのほとんどの成分が天然ゴム製品Bでも検出されているが、天然ゴム製品Bでは保持時間(R.T.)9~15minに特徴的な多くの不分離成分が観測された。マススペクトル解析の結果、C10H22およびC12H24の組成をもつ構造異性体であると推察された。
各試料からの全発生ガス量を比較するため、TICクロマトグラムの全ピーク面積値を算出し、天然ゴム製品Aの面積値を1として各製品での面積比を求めた。その結果をFig.4に示す。
50℃における総発生ガス量は塩化ビニル樹脂製品が最も多く、天然ゴム製品B、ニトリルゴム製品、天然ゴム製品Aの順であった。
塩化ビニル樹脂製品における発生ガス量の多くを占めた成分はピーク5の2,2,4-trimethyl-1,3-pentanediol diisobutyrateであり、この化合物は造膜助剤などとして用いられる添加剤として知られている。また、ニトリルゴム製品ではピーク2の4-cyanocyclohexeneが優位に検出された。
【Fig.3 TIC chromatograms of each samples @50℃】
【Fig.4 Comparison of total peak area ratio in TICCs of each samples @50℃ 】
まとめ
一般に高分子材料の評価・解析には熱分解装置を用いたGC/MS手法がよく用いられる。しかし、比較的低い温度域での発生ガス分析を行う場合、HSを用いた手法で高分子材料製品の評価を行うことが可能である。
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