オンライン脱塩カートリッジによるリン酸塩緩衝液を用いたLC-MS分析
MSTips No.239 日本電子株式会社 MS事業ユニット
はじめに
高速液体クロマトグラフ(HPLC)と質量分析計(MS)を接続した液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS)は、その高い定性能力と検出感度から、医薬品の分析において威力を発揮している。HPLC用の移動相溶媒には、UV検出器にて低波長側でも試料の分析が可能で分離能力が高いことから、リン酸塩緩衝液が汎用されている。しかし、リン酸塩緩衝液は不揮発性であるため、MSのイオン源で析出し汚染につながったり、目的成分のイオン化を阻害することから、オンラインでのLC-MS測定に用いられることが少ない。LC-MS用オンライン脱塩カートリッジは、LCとMSの間に接続することでオンラインで脱塩が可能であり、リン酸緩衝液を使用したLC-MS分析が可能となる。本報告では、レセルピンとそれに含まれる不純物の分析を試みた。
実験
Fig.1にオンライン脱塩カートリッジ"ソルナックカートリッジ"(エムエスソリューションズ社製)の写真および、それを用いたLC-MS分析での接続例を示す。ソルナックカートリッジは、内径4.6mm、長さ30mm(CFAN4630)のものを使用した。ソルナックカートリッジの脱塩能力を維持し、イオン源への汚染を最小限とするため、マススペクトル取得時以外はオートインジェクションバルブを用いて、ソルナックカートリッジ側へ送液を行わないようにした。HPLCおよびMSの条件をTable1に示す。
Fig.1 Experimental setup of LC-MS using SALNAC cartridge.
Table1 HPLC and MS conditions
HPLC条件 | |
---|---|
カラム |
CERI L-column2 ODS (3μm, 4.6mmi.d.×150mm) |
移動相 |
A ・・・ 10mM KH2PO4水溶液, B ・・・ CH3CN |
流量 |
0.8 ml/min |
検出器 |
UV(215 nm) |
MS測定条件 | |
---|---|
JMS-T100LCシリーズ |
CERI L-column2 ODS (3μm, 4.6mmi.d.×150mm) |
イオン化 |
ESI POS |
測定範囲 |
m/z 50~1000 |
結果
Fig.2 (a)、(b)にUV検出器のクロマトグラム(a)とLC-MSのトータルイオンカレントクロマトグラム(b)を示す。両者において、主成分であるレセルピン(青線)のほかに、不純物(赤線)を検出した。クロマトピーク幅は、脱塩カートリッジを接続することで広くなるが、化合物の溶出順に変化はない。ピーク幅の広がりは、化合物の脱塩カートリッジへの付着の程度によるため、化合物に依存すると考えられる。次にFig.2(c)、(d)に、保持時間8.63min (c), 9.23min (d) 付近のマススペクトルを示す。Fig.2(c)、(d)では、レセルピン[M+H]+ (m/z 609.2807)で質量補正を行った。不純物の観測質量がm/z 625.2763であることから、レセルピンの酸化物[M+H]+ (C33H41N2O10+, m/z 625.2756) であると推測できる。
まとめ
本報告では、ソルナックカートリッジを用いてリン酸塩緩衝液の使用下でオンラインLC-MS分析が可能であることを報告した。ソルナックカートリッジを用いれば、リン酸塩緩衝液で検討されたHPLC条件をそのまま質量分析に適用することができ、医薬品の分析に役立つものと考えられる。
Fig.2 LC-MS results using SALNAC cartridge. (a) UV chromatogram (215nm), (b) total ion current chromatogram, (c) Mass spectrum around 8.63min, (d) Mass spectrum around 9.23min.
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