HS-GC-MS法による粒状大豆蛋白中の残留ヘキサン分析
MSTips No.248
概要
加工食品である粒状大豆蛋白は脱脂大豆を原料として製造される。脱脂にはヘキサンが用いられるが、最終的にはこれを除去することが食品衛生法で義務付けられている。今回は四重極型質量分析計JMS-Q1500GCに前処理装置としてトラップモードによる高感度測定が可能なヘッドスペースサンプラー(HS)MS-62070STRAPを接続し、粒状大豆蛋白中の残留ヘキサンを分析したので報告する。
実験
実試料として残留ヘキサンを含む粒状大豆蛋白を2g秤量し、抽出効率を向上させるための純水200μLを加えてHSバイアルに封入し測定した[1][2]。標準試料にはn-ヘキサンをメタノールで希釈したものを使用した。固体の実試料に対し液体の標準試料を用いるため、定量方法として標準添加法およびMHE(Multiple Headspace Extraction)法を用いた。HS-GC-MSの測定条件をTable1に示す。
Table 1. Measurement conditions of HS-GC-MS
HS | |
---|---|
Sample temp. | 105°C (6min) |
GC | |
Column | TC-624 (GL Sciences社製) 60m x 0.32mm i.d., Film thickness 1.8μm |
Injection port temp. | 220°C |
Oven temp. | 40°C→20°C/min→180°C(1min) |
Injection mode | Split 5:1 |
Carrier gas | He, 3.6mL/min |
MS | |
Ion source temp. | 220°C |
Interface temp. | 220°C |
Ionization mode | EI, 70eV |
Ionization current | 50μA |
Relative EM voltage | +0V |
Measurement mode | Scan |
Scan range | m/z 35~300 |
結果
実試料(2g)および標準試料n-ヘキサン3ppm(2g換算)のTICクロマトグラムをFigure1に示す。脱脂に使用されるヘキサンはn-ヘキサンの他に2-メチルペンタン、3-メチルペンタン、メチルシクロペンタンの各異性体が含まれており、実試料ではこれらを含むいくつかのピークが検出された。この中でn-ヘキサンのピークについて定量を行った。
Figure1. TIC chromatograms
標準添加法による定量結果
標準添加法は実試料に直接標準試料を添加し、添加濃度の検量線から実試料濃度を求める手法である。横軸をn-ヘキサンの添加濃度、縦軸をn-ヘキサンのピーク面積値として作成した検量線をFigure2に示す。実試料中のn-ヘキサン濃度は検量線のx切片として算出され、結果は6.2ppmであった。
Figure2. Calibration curve of standard addition method
MHE法による定量結果
MHE法は1本のバイアルを複数回測定し、ピーク面積値Anの減衰傾向からバイアル中の総量の面積値ΣAnを推定する手法である。実試料(2g)および標準試料n-ヘキサン3ppm(2g換算)の3回測定における、ピーク面積値An推移をFigure3に示す。このプロットの近似式y=a・ekxより総量の面積値はΣAn=A1/(1-ek)として算出される。これを縦軸とし、横軸を標準試料のn-ヘキサン濃度として作成した検量線をFigure4に示す。この検量線より実試料中のn-ヘキサン濃度を算出した結果は6.8pmであり、標準添加法の結果とほぼ同じ値となった。
Figure3. Area plot of n-Hexane peak in Unknown Sample (left) and STD n-Hexane 3ppm (right)
Figure4. Calibration curve of MHE method
参考文献
[1] (社)日本食品衛生協会出版, 厚生労働省監修:食品衛生検査指針 食品添加物編 , p525-529 (2003).
[2] H. P. DUPUY and S. P. FORE:Journal of the American Oil Chemists’ Society, vol.47, 231-233(1970).
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