ヘッドスペース/GC/MSによる水中の揮発性有機化合物(VOC)とカビ臭原因物質の同時分析
MSTips No.271
はじめに
水中の揮発性有機化合物 (VOC) の測定には、一般的に、ヘッドスペース(HS)/GC/MS が用いられ、水道水質基準として基準値が設定されいている VOC についても同様に HS/GC/MS の使用が認められている。同じく水道水質基準として基準値が設定されているカビ臭原因物質 (2-メチルイソボルネオール:2-MIB、ジオスミン) についても、その測定法として HS/GC/MS の使用が認められているものの、VOC の基準値に比べ2種類のカビ臭原因物質の基準値は非常に低濃度であり測定に際しては高感度が求められることから、これら2種類の物質群を HS/GC/MS を使って同時に測定することは簡単ではない。今回、ヘッドスペースサンプラとしてトラップ機能を有する MS-62070STRAP を用い、水道水質基準に含まれている22成分のVOCと2種類のカビ臭原因物質を同時に分析するメソッド開発を行ったので以下に報告する。
ヘッドスペースサンプラー
ヘッドスペースサンプラー MS-62070STRAP は、濃縮による高感度分析が可能なトラップ-ヘッドスペース法に対応している。また、従来どおりのサンプルループも備えており、制御ソフト上で選択して使用することが可能である。さらにモニタリングシステム用バイアル搬送ロボットMS-62180KTMSと組み合わせることで、水質検査を自動化することが可能となる (MSTips No.272参照 )。
Fig. 1 Schematic diagram of flow channel
Fig. 2 SIM chromatograms of 2-MIB & Geosmin (1 ppt)
測定条件
測定試料は、市販のVOC 混合標準液およびカビ臭原因物質混合標準液より、VOC 0.1ppb + カビ臭原因物質 1 pptおよびVOC 2 ppb + カビ臭原因物質 20 ppt 水溶液を調整して使用した。バイアル1本当たりの水溶液量は10mL とし塩化ナトリウムを 4g 添加した。HS/GC/MSの測定条件をTable 1に示す。
Table 1 Measurement conditions of HS/GC/MS
Headspace Auto Sampler | MS-62070STRAP (JEOL Ltd.) |
---|---|
Sampling mode | Trap mode |
Sample temp. | 80°C (20 min) |
Gas Chromatograph | Agilent 7890A (Agilent technologies, Inc.) |
Column | DB-1 ( 60m×0.25mm (d.f. 1.0μm) |
Column flow | 2.5 mL/min (Constant flow ) |
Oven temp. | 35°C (3 min) →10°C/min→ 250°C (5 min) |
Mass spectrometer | JMS-Q1500GC (JEOL Ltd.) |
Measurement mode | SCAN / SIM |
Ion Source temp. | 200°C |
Interface temp. | 250°C |
Fig. 3 HS/GC/MS System
結果
Fig. 4にVOC 2ppb + カビ臭原因物質 20 ppt 水溶液のTICクロマトグラムを示す。Fig. 5 にVOC 0.1ppb + カビ臭原因物質 1 ppt 水溶液を測定した際のVOC 22成分とカビ臭原因物質2成分の抽出イオンクロマトグラムを示す。各成分とも良好な感度で検出された。カビ臭原因物質においては、水道法で定められる基準値の1/10 である 1 ppt においても十分な感度で検出された。また、TICクロマトグラム上ではピーク分離できていないVOC の低沸点成分も、抽出イオンクロマトグラム上では十分にピーク分離できており、定量には問題がないことが確認できた。
Fig. 4 TIC chromatograms of VOC (2ppb) , 2-MIB (20ppt) and Geosmin (20ppt)
Fig. 5 Extracted ion chromatograms of VOC ( 0.1ppb) , 2-MIB (1ppt) and Geosmin (1ppt)
まとめ
トラップ-ヘッドスペース法に対応したHS/GC/MSによりVOC 22成分とカビ臭原因物質2成分 の同時分析を行った。その結果各成分とも良好な感度で検出できることが確認でき、水質検査に有効であることが確認できた。
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