トリプルステージ型ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS/MS)法による塗膜くず中のPCB分析
MSTips No.316
概要
塗料中に含まれているPCBは、主に可塑剤として塩化ゴム系塗料の一部に加えられてきた経緯があり、該当の塗料は主に高度成長期に建築された鋼構造物に多く使用されている。近年、高度成長期に建築された橋梁や建築物を修理・改築するにあたって、発生する塗膜くず (廃塗料) にPCBが含まれていることが社会問題となっている。それを受け、2014年9月に公表された「低濃度PCB含有廃棄物に関する測定方法 (以後、公定法と省略)」では、塗膜くず (廃塗膜) についての低濃度PCB含有廃棄物としての測定方法が示された。
今回、JMS-TQ4000GCを用いて、公定法の一つであるトリプルステージ型ガスクロマトグラフ質量分析計 (GC/MS/MS) 法に準拠する形で、塗膜くず試料を分析した事例を紹介する。尚、測定データの解析にあたっては、ダイオキシン分析プログラム「TQ-DioK (ティーキューダイオック)」を使用した。

実験
サンプルは試料量5gの塗膜くずを公定法に準拠する形で処理し、最終的に5mLに定容した後、0.2mLを分取し、 Wellington Laboratories社のMBP-MXPをクリーンナップスパイクとして20μL添加したものを検液とした。検量線用 PCB 標準溶液は、Wellington Laboratories社のOIL-CVS-BのOIL-CS1-B~OIL-CS4-Bを使用した。検量線用 PCB 標準溶液の濃度テーブルをTable.1に示した。
Table.1 OIL-CVS-B; Component and concentrations
OIL-CS1-B | OIL-CS2-B | OIL-CS3-B | OIL-CS4-B | |
Native PCB Congeners (#3, #8, #28, #52, #101, #118, #138, #153, #180, #194, #206, #209) |
0.5 ng/mL | 2 ng/mL | 10 ng/mL | 40 ng/mL |
Mass-Labelled PCB Congeners (#3L, #8L, #28L, #52L, #101L, #118L, #138L, #153L, #180L, #194L, #206L, #209L) |
40 ng/mL | 40 ng/mL | 40 ng/mL | 40 ng/mL |
測定に使用した機器条件をTable.2に示した。測定は、SRMモードを使用し、トランジションの設定は、公定法記載の条件に則り、pd-SRMモードにより生成されたパラメーターを使用した。pd-SRMにより生成されたSRM条件をFigure.1に示した。
Table.2 Measurement condition
GC | Column | VF Rapid-MS PCB screen (Agilent Technologies, Inc.) length 10m, inner diameter 0.53mm |
Restrictor | length 0.6m, inner diameter 0.1mm | |
Injection port temperature | 300°C | |
Column oven temperature | 85°C (1min) →40°C/min→305°C (0.5min) | |
Injection mode | Pulsed Splitless (30psi, 1min) | |
Injection volume | 2μL | |
Column flow | 1.5mL/min | |
MS | Ion source temperature | 280°C |
Interface temperature | 300°C | |
Acquisition mode | pd-SRM | |
Collision gas | Nitrogen (0.5mL/min) | |
SRM mode | Fast mode | |
SRM condition | (See Figure.1) |

Figure.1 SRM condition
結果
検量線用 PCB 標準溶液の測定結果から作成した検量線とRRFの値をFigure.2に示した。公定法において、定量に使用するRRFは、指示値の直線性の基準として、CVが20%以下であることが目安として記載されている。今回作成した検量線については、全ての異性体においてRRFのCVが10%以下であり、公定法の基準を満たしていることが確認された。

Figure.2 Calibration curve & RRF of each isomers
サンプルを測定した際の各同族体の平均SRMクロマトグラムをFigure.3に示した。また、先に作成したRRFを用いて計算した各同族体における定量値も併せて示した。全ての同族体の定量値を合算したサンプル中の全PCB濃度は、1.1mg/kgであった。

Figure.3 Homologue average SRM chromatograms of Sample
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